IPBESさんの調査報告
先日の新聞にも出ていたのですが、その後ネットのニュースを見ると案の定このような記事が載っていたのですね。
AFP通信さんと、それからヤフーニュースさんを経由した毎日新聞さんの記事なのですね。
……ちなみに私が見たのは朝日新聞さんの記事です。
なんにせよみんな同じことを言っており、今月6日にIPBESさんが「およそ100万種の動植物が絶滅の危機に瀕している」という報告書を提出したのだそうです。
IPBESというのは「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」のことで……要するに国連の科学者の組織なのですね。
世界中132か国からその道の専門家たちが参加して、日夜生態系の状態を調査し、またその結果を元に各国の政策の在り方を考えていこうという活動をしているのですね。
そしてIPBESさんの報告によれば今後凄まじい数の生き物たちが絶滅するかもしれないということなので、巷でちょっとした騒ぎになっている、という状況のようです。
……そうでしょうとも。
いやまぁ、何を今更という感じではありますが。
三葉虫やフデイシが大量に死に絶えた4億4400万年前のオルドビス紀末に始まり、恐竜が絶滅した6500万年前の白亜紀末まで、地球は今までに5回の大量絶滅、いわゆる「ビッグファイブ」を経験しているのですね。
そして、「危機にさらされているのが100万種」という具体的な数はともかくとして、現在まさに6回目の大量絶滅が進行中であるということは、ちょっと生き物に詳しい人ならみんな知っているようなことなのですね。
事実上地球を支配している昆虫ですら毎年1%の種が絶滅危惧種の仲間入りをしており、このペースで行けば数十年後には全ての昆虫が絶滅するかもしれないということは、ちょっと前のAFP通信さんのニュースでも言っていたのですね。
まぁ、見ていた人がどれくらいいるのかは定かではありませんが……。
むしろIPBESさんのニュースを見るまで生き物たちが何の危険にもさらされずに平穏無事に暮らしていると思っていた人がいるのだとしたら、相当に危機感が無いとしか言いようがないのですね。
具体的にどういうことなのか
さて、100万種が絶滅の危機にあると言われても……数が多すぎてイマイチピンとこないのですね。
まず、そもそも地球上に一体どれほどの種類の生き物がいるのでしょうか。
実は現在知られている動植物……つまり、既に名前が付いており、図鑑にも載っているであろう動植物……は、およそ180万種類いるのですね。
これだけでもエラい数です……既知のポケモンの2200倍なのですね!
ですが……実際はこれでも氷山の一角で、地球上の動植物全体の1割に過ぎないのではないかと言われています。
……つまり、全体としてはおそらくこの十倍はいそうなのですね。
とりあえず今のところはおそらく全部で870万種ほどなのではないか……と言われているようです。
なんにせよ100万種が絶滅の危機ということは、既知の生き物の半分以上……全体的に見ても9分の1以上が、今現在まさに危険にさらされているということなのですね。
これは史上最悪の大量絶滅と言われている、2億4800万年前のペルム紀末の大量絶滅(三葉虫を含め、地球上の生き物たちの95%が死滅した)と比べると、なんとなく大したことがない気もしなくもありませんが、深刻な大量絶滅であることに変わりはないのですね。
この絶滅危機の内訳は冒頭で引用した毎日新聞さんの記事で詳しく書かれているのでそちらを見て頂くとして……。
報告によれば、現在一番危ないのは両棲類であるようです。
彼らはその40%以上……つまり半分近くが絶滅の危機に瀕しているというのですね。
……これはエラい数字なのですね。
もちろん他の生き物たちもただではすみません。
地球の生態系というものは全ての生き物たちが協力し合ってできあがっている……いや、むしろかろうじて絶妙なバランスを保って運営を続けていられる大きな組織のようなものなのですね。
そしてその中で全ての生き物はそれぞれの役割を果たしながら生活しているわけなのであり、一見すると全く異なるものに見える生き物同士でも、実際は密接に関わりを持ちながら暮らしているのですね。
つまり、「風が吹けば桶屋が儲かる」という現象が自然界ではいたるところで見られるのですね(なんか違う気が……)。
……と、いうことは……。
この中には少なからず「他の生き物を支える鍵となる生き物」が存在しているわけで、もしその生き物が絶滅してしまったら、その生き物の恩恵を受けている他の全ての生き物たちの生活が成り立たなくなるのですね。
つまり、たった1種類の生き物の絶滅が、連鎖的に他の生き物の絶滅を引き起こす可能性があるのですね。
……わかりづらいので喩えを言うのですね。
たとえばもし今世界中でコメ農家が無くなり(つまり絶滅して)、誰もコメを生産できなくなったとしたらどうなるでしょう。(コメ農家の方ごめんなさい……。)
コメを材料として使っている全ての料理……白飯は言うまでもなくカレー、リゾット、ナシゴレン、炒飯、ジャンバラヤ……いやもう何でも……が成り立たなくなり、またそれらを売っている人達に深刻なダメージが及ぶのですね。
もちろん我らが日本酒も生産が不可能となり、我々日本人の伝統的なたしなみが消滅するのですね。
その結果、どうなるか……。
コメ農家が無くなるだけでなく、それに付随して米問屋が無くなり、造り酒屋が無くなり、またカレー屋さんが無くなり、リゾット専門店が無くなり、ナシゴレン専門店が無くなり、ジャンバラヤ専門店が無くなり、中華屋さんでは炒飯が出せなくなるのですね。
その結果コメ農家やカレー屋さん、各種米料理専門店の人たちが職を失うだけでなく、大手レトルト食品会社ではカレー製造部門が根こそぎ消滅し、大手食品会社では「カップライス」の開発部が部ごと解雇され、またその炒飯の腕前を買われて中華屋さんで働いていた料理人さんが炒飯を作れなくなってクビになる羽目になるのですね(?)。
つまり、たった1つ「コメ農家」という職業が無くなっただけで、イモヅル式に他の職業にまで悪影響が及ぶのですね。
……かなり極端な喩え方をしましたが、ようするにこういうことなのですね。
このように人間は一人では生きていけませんし、それ故に他の職業の人たちと協力し合っているのですね。
またそれは人間だけでなく、他の全ての生き物たちに言えることなのですね。
たとえ自分たちの種族の中では一人で(単独で)生きていくことができる動物であっても、他の種族を含めた中でという意味での単独で生きていける生き物はいないのですね。
そもそも生き物というものはお互いに(異種間で)助け合わなければ生きていけないようにできているのですね。
……こんなことは中学の理科の教科書に書かれていそうなものですし、生物の基本なのですが、日常的にそれをちゃんと意識している人が一体どれほどいるというのでしょうか。
両棲類が一体生態系の中でどのような役割を担っているかを知っている人なら、「両棲類が4割絶滅しそう」だと聞いただけで、それがどれほど深刻なことなのかわかるのですね。
いや、両棲類に限らず全ての生き物は、上にも書きましたが生態系の中で固有の役割を持って生きているのですね。
どの生き物が一体どんな役割を持っているかは、よほどその生き物について研究しないかぎりはわからないですし、そんなことは自ら進んで知ろうという意思が無ければまずできません。
ですがそういうことを知ろうともしないで、やれ「あの生き物は毒があるから駆除しよう」だの、やれ「あの虫は見た目が気持ち悪いから殺してしまおう」だのと言っている人類の、なんと多いことか……。
もはや待ったなし!
ちなみに、絶滅の危険がある生き物たちが載ったリストのことを「レッドリスト」というのですね。
詳しくはこちらにまとめてありますが、レッドリストでは10個の「カテゴリ」を用いて、その生き物がどれほど危険であるかを記載しているのですね。
このレッドリストを作っているのはIUCN(国際自然保護連合)さんという組織です。
世界中を挙げて自然を守ろうとする凄い組織ですが……それでもレッドリストカテゴリの評価をできたのは85604種だけなのだそうです。
……つまり、「これは絶滅しそう」だとか、「これはまだ大丈夫!」という判断ができたのが、たったこれだけなのですね。
85604種というとかなりの数に思えますが、既知の生き物だけでも180万種はいますから、その中の5%程度しか「絶滅危惧状況がわかっていない」のですね。
おそらく生き物全体の数であろう870万種と比べれば1%にもなりません。
……つまり、リストに載っていないだけで、危険な状態にある生き物はそこらじゅうにいると考えた方がいいのですね。
また冒頭で挙げたAFP通信さんの記事には
「生物種の絶滅のペースは現在、過去1000万年余りの10倍から数百倍に加速しており、6600万年前に非鳥類型恐竜が絶滅して以降初の大量絶滅に向かう恐れがある。」
とありますが……。
………「大量絶滅に向かう」というより、もうすでに「大量絶滅は始まっている」のですね。
レッドリストが全種揃うのはおそらく数千年後(!)と言われていますし、世界では毎年4万種もの生き物たちが絶滅しているとも言われていますから、もうすでに状況はボーっと生きていられないレベルになってしまっているのですね。
絶滅を防ぐために生き物たちのことを知ろう!
さて……この報告書ですが……。
IPBESさんの言う「100万種」というのが、「単純に100万種が危険」という意味なのか、それとも「危険なのはもっと少ないが、それらが絶滅すると連鎖的に他の種も危険にさらされるので、それを含めて100万種」という意味なのか、残念ながら記事からではイマイチわからないのですね。
おそらく原文の報告書を読めばちゃんと書いてあると思うのですが……残念ながら報告書は1800ページもあり、単行本にすると軽く8巻程度にはなってしまうのですね。
また中身はおそらく英語でしょうから、手に入れることができたとしてもとても読めないのですね……。
………報告書がどうであれ、なんにせよ1つ言えることがあるのですね。
それは、この問題は「どこか遠くの国で起こっている、自分たちとは全くかかわりのないこと」ではない、ということなのですね。
つまり、これに関しては世界中の全ての人たちが当事者であり、またみんなが身近な問題としてどうするべきかを考えていかなければならないのですね。
というのもこの問題の原因はそもそも人間活動なのですね。
つまり、私たちが他の生き物たちがそこにいるということを考えずに、もしくは知らずに、自分たちの利益を追求しようとして無理をし過ぎた結果、このようなことになってしまったのですね。
……では具体的にどうすればいいのか……。
あくまで私の意見ですが……、ひとりひとりが生き物たちとの付き合い方を見直せばいいと思うのですね。
自分の行動が他の生き物たちに対して一体どのような影響を及ぼすのか……それをちゃんと考えて行動すればいいと思います。
………このようなこと……普通の生き物は考えなくて良いはずです。
普通の生き物は自分たちの種のことだけを考えていればまず問題無いのですね。
なぜなら、普通の生き物たちどうしの間には、実はそれほど大きな力の差は無いのですね。
どんなに小さな生き物であれ、またどんなに大きな生き物であれ、それぞれの力そのものには差が無いため、どちらも絶滅することなく生きていくことができます。
たとえば体の小さなネズミも、それを食べるキツネも、両方ともその力が釣り合っているため、お互いに絶滅することなく仲良く共存しているのですね。
……もちろんネズミはキツネに喧嘩では勝てませんが、種の間での勢力という意味では、両者の間に力の差はありません。
キツネはネズミを食べますが、どんなに頑張ってたくさん食べたとしても、ネズミの数はキツネに比べてとてつもなく多く、またその繁殖力もキツネの比ではないため、食べ尽くしてしまうことはないのですね。
つまり、たとえキツネが自分たちのことだけを考えて……つまり、「こんなに獲ったらネズミが絶滅しないだろうか」などということは考えずに、ネズミを食べまくったとしても、ネズミは絶滅しません。
これはネズミとキツネに限らずどの生き物にも言えることで、環境の激変や急激な進化などのよほど特別な条件がそろわないかぎり、普通生き物は他の生き物を絶滅に追いやるようなことはないのですね。
たとえその生き物が「自分たちのことだけを考えて」行動していたとしても、です。
……なのですが、もはや人は普通の生き物ではありません。
偉い獣医師の先生が言っていましたが、人類は既に遠い昔に生態系のピラミッドから抜け出し、他の生き物から見ればもう「神の領域」に足を踏み入れてしまっているのですね。
……つまり、もはや「神の力」を持ってしまっているのですね。
これは普通の生き物の力では到底太刀打ちできないほどの力ですが、人はそれに気づきません。
自分たちもまだ「生態系ピラミッドの中の1動物に過ぎない」と考えています。
そして他の生き物たちと同じように振る舞う(自分たちの種のことだけを考えている)。
ですが……そんな強大な力を持った生き物が、自分たちのことだけを考えて、他の……もっと弱い力しか持っていない普通の生き物たちと同じように、また自分たちも弱い普通の生き物であるつもりで、本気で暴れたら一体どんなことになるでしょう。
普通の生き物同士の間では大した力の差はないため、お互いに本気で暴れてもその力は釣り合っています。
力が釣り合っているとはすなわち「ずっと引き分けが続く」ということですから、特に問題は起こらないのですね。
ですがそのうちの1つの種が、他の種とは比べものにならないほど強大な力を持っていたとしたら……?
……結果は火を見るよりも明らかなのですね。
喩えて言うならアマチュアの相撲大会にプロの力士が乱入してくるようなものなのですね。
いとも簡単に勝ってしまいますし、ここでいう「勝つ」とはすなわち相手を滅ぼしてしまうということなのですね。
生き物の種の間での勢力の勝負は、よほどの条件がそろわないかぎり決して誰も「勝って」はならないのですね。
常に「引き分け」の状態を続けなければ、他の誰かが絶滅するということになります。
では、人が他の生き物に「勝たず」に、常に「引き分ける」ためにはどうすればいいのか……。
答えは簡単です。
自分たちが「既に途方もない力を持っている」と自覚したうえで、ちゃんと「手加減」すればいいのですね。
つまり、自分たちの行動が他の生き物に及ぼす影響を考えながら行動すればいいのですね。
そのためにはまず、相手の生き物の事をよく知ることから始めればいいと思うのですね。
どこにどのような生き物がいて、どんな生態を持っているのか。
この生き物たちの「勢力」はどの程度のものか、うっかり絶滅させてしまうことはないか。
全ての人たちがそういうことを意識してみるだけで、大分結果は変わってくると思うのですね。
そのためにはまず、地球が人間だけのものではないということをちゃんと改めて理解すればいいのですね。
……もはやボーっと勝負をしていられる時代ではないのですね。
(なお、上記ネズミとキツネのたとえですが、厳密に言うとネズミの力は遥かにキツネを上回っているはずです。
なぜなら、ネズミを食べる動物はキツネだけではないのですね。
他にフクロウやテン、ネコ、タヌキなど、いろいろな動物がネズミを食べるのですね。
ですがネズミが絶滅することはありません。
こんなに食べられているのにまだ、ネズミは平然と地上を闊歩していますし、「普通の勢力」を保っています。
……つまり逆に言えば、キツネ、フクロウ、テン、ネコ、タヌキなどの動物の力を総動員して、やっと彼らと釣り合うほど、ネズミの力は強いのですね。)
ちゃんと「手加減」するために
……なんだか長くなってしまったのですね。
私の言いたいこと……ちゃんと伝わった……のかな。
簡単に言えば、一番大事なのはひとりひとりが「手加減する」こと……つまり、「他の生き物のことを考えて行動する」ことなのですね。
そしてそのためには「生き物のことを知る」ことが大事なのですね。
さらにそのためには、まず「自分たちの隣には常に他の生き物がいる」ということを自覚する必要があるのですね。
今までに人類は途方もない数の生き物たちを絶滅に追い込んでしまいました。
その原因は状況によって違ったとは思いますが、大体は「他の生き物のことを考えずに無茶を続けた」もしくは「自分たちの行動で絶滅してしまうとは思わなかった」といったところだったのでしょう。
もしくはもっと単純に「そこにそんな生き物が住んでいるなんて気付かなかった」のかもしれません。
いずれにしても、みんなが「そこに生き物がいると自覚し」「その生き物のことを知って」「その生き物のことを考えて」行動していれば、ちゃんと防げたかもしれない悲劇なのですね。
既に絶滅してしまった生き物は、もうどうしようもありません。
さすがに「神の力」を以てしてもよみがえらせることは不可能に近いのですね。
ですが、これから絶滅しそうな生き物を助けるのは、今からでもまだなんとかなるはずです。
人間は他の生き物と違い、他の生き物のことを考えることができます。
ただそれをやってこなかっただけ。
逆に言えば今からでも他の生き物のことを考えるようになれば、きっと状況は変わるはずです。
幸いなことに、IPBESさんも報告書の中で「まだ間に合う」と言っているのですね。
今日からでも遅くありません。
まずは身近なところから始めればいいと思います。
身近な……出会う機会が無くても、おそらくすぐ傍にいるであろう生き物のことを、もう少し意識してみませんか。