奇妙なカニの化石発見
……このブログ、毎日更新をするものだったはずであり、また初めて半年ほどの間は順調にそれを続けていたはずなのですが、なんだかんだで4日間も更新をさぼってしまったのですね。
おかげでせっかくの連続投稿記録が台無しです。
いや、他にやることがあったのだから仕方がない……と割り切ることにしましょう。
むしろもう更新頻度を見直した方がいいのではないかしらん……。
さて、世間一般では10連休と言われている今日ですが、私には関係ありません。
とりあえず、けさいつも通りというか4日ぶりにニュースを漁っていたのですね。
そうしたらなにやらナショジオさんのサイトで面白そうな記事を見つけたのですね。
いわく、今までの「カニ」という生物の常識を覆してしまうイレギュラーなカニが発見された……とのことなのですが……カニ界って……。
なんだか大阪のかに道楽はじめとする全国のカニ料理の業界の話かと思ってしまいます。
ですがカニ料理屋さんの話ではなくて、コロンビアで9000万年前のカニの化石が発見されたという話でした。
9000万年前といえば白亜紀の真っ只中ですが……化石では食べられませんね。
またそのカニがこれまで発見されていたどのカニとも違う姿をしており、文字通り「奇妙なカニ」だったのだそうです。
奇妙なカニ…………
…………………「アノマロカリス」………なのですね。
今からおよそ5億4200万年前に始まったカンブリア紀において海の生態系の頂点を極めていたご存知カンブリア紀のアイドル、アノマロカリスの名前は古代ギリシア語に由来するラテン語「Anomalocaris」で、一般的には「奇妙なエビ」と訳されますが、「caris」は「エビ」とも「カニ」とも解釈できる単語なので、「奇妙なカニ」という意味も同時に備えているのですね。
彼らを表すグループ名である「ディノカリディーダ Dinocaridida」は「恐竜」ならぬ「恐蟹綱」と訳されますが、この時の「caris」は「エビ」ではなく「カニ」と訳されているわけですから何とも面白いのですね。
おそらく古代ギリシアにおいて「エビ」と「カニ」は同じ生物であり、両者の間に特に厳密な区別は無かったのでしょう。
…………話が脇道に反れてしまうのですね。
なんにせよこのアノマロ……じゃない、「奇妙なカニ」については4月24日付で学術誌「Science Advances」にて論文が発表されたようです。
このカニ……「奇妙な」というだけあってすごくヘンなカニなのですね。
あまりにもヘン過ぎて印象に残ったので、今日はこのカニについて書くのですね。
カニって何でしたっけ
さて……、奇妙なカニ云々の前に、そもそもカニとはなんでしたっけ。
たぶんそこを最初に押さえておかないと、このニュースのというかこのカニの「奇妙」のツボもイマイチ理解できないと思いますし、一体どれほどスゴい発見なのかもわからないと思うのですね。
と、いうわけなので、まずは「カニ」というもの全般について書くのですね。
そもそも「カニ」とは分類的には
動物界-節足動物門-甲殻亜門-軟甲綱(エビ綱)-真軟甲亜綱-ホンエビ上目-十脚目(エビ目)抱卵亜目(エビ亜目)-短尾下目(カニ下目)
………に属する動物のことをいうのですね。
………ヤシガニやタラバガニなどの「異尾下目(ヤドカリ下目)」に属する「例外」も、「カニ」の中には含まれていますが、厳密に言えば「カニ」というのは「短尾下目」のことなのですね。
いずれにせよ、「エビの中のとあるグループ」のことを「カニ」というわけであり、カニとはすなわち「one of エビ」なわけなのですね。
………本当にカニとエビには区別がないのですね。
また体の特長としては
- 短い触角
- ハサミ
- 楕円形の甲羅
- 眼柄(がんぺい)と呼ばれる棒の先に付いた眼
- 歩くのに適した足、もしくはオールのような後ろ足
- 3対のペンチのような口器(あご)
- 尻尾が甲羅の下に折りたたまれている
………などが挙げられるのですね。
同じエビ目に属しており、また10本の足などエビとの共通点も多々あるカニではありますが、この辺りはエビとは大分違うのですね……。
カッリキマエラ・ペルプレクサ Callichimaera perplexa
さて、カニについてわかったところで(?)本題です。
新発見のカニももちろん「短尾下目」に属しており、学名を「Callichimaera perplexa(カッリキマエラ・ペルプレクサ)」というのですね。
名前の意味は「不可解で美しいキメラ」……なのだそうです。
「Chimaera キマエラ」はギリシア神話に登場する動物「キマイラ」のラテン語での名称なのですね。
また複数の遺伝的な要素が同じ個体に複合して入っている状態を「キメラ」などと呼びますが、その由来となったのがキマイラなのですね。
カニの幼生の特徴と成体の特徴とがごっちゃになっていることから、このような名前が付いたのだそうです。
どういうことなのかというと、リンク先の図を見て頂ければ一目瞭然なのですね。
このカニ、記事の2ページ目の動画を見るとわかるのですが、結構小さくて親指の先ほどしかないようです。
……既に3Dで復元されているのですね。
このモデル……3Dプリンターで印刷したらフィギュアにできないかしらん……。
是非とも台座付きで飾っておきたくなるようなデザインなのですね。
なんにせよこのカニ、復元図を見てもわかる通り、足が4本オールのような形になっており、海の中を泳ぎ回って生活していたようです。
……まるでウミサソリなのですね。
この時点でカニの常識から大きく逸脱しているような……。
ただ、ウミサソリや既存のカニの「ひれあし」は普通は「後ろ脚」ですが、このカニの場合は「前脚」なのが大きな特徴なのですね。
……きっと前輪駆動なのでしょう。
前輪駆動の動物でもっともよく知られているのは鳥類ですが、きっとこのカニのひれは鳥類の翼のようなものだったに違いありません。
他にも、
- 眼柄が無い大きな目
- 脚のような口器
- 尻尾が折りたたまれていない
など、おおよそカニらしくない……と、いうより、普通のカニとは正反対の特徴や生態を持っていたようなのですね……あれ、カニってなんだっけ。
こ、これは………
まさしく「奇妙なカニ」なのですね。
というより、これはもうカニという範疇に含めていいものなのか知らん……。
素人目に見ても常識破り。ものすごい発見に違いない!
なんにせよこのカニ……私から見てもカニというものの常識を完全に無視しているのですね。
おそらく誰か幻獣(※オリジナルの動物)をデザインするのが好きな友人が、こんなカニをデザインして私に見せたら、私はきっと「ナニコレ既にカニじゃないじゃん」「お空飛んじゃってるよ!」「君は一体カニをなんだと思っているんだ」などとツッコミを入れたに違いありません。
この化石は全くの偶然から見つかったのだそうで、また発見した人も最初はカニの研究なんてしてみようとは思ってもいなかったそうなのですが、それがこのような大発見につながってしまうのですから、運命とはなんとも面白いのですね。
ともあれ、化石自体は割と簡単にたくさん見つかったそうですから、これはおそらく近縁種がこれから続々と見つかる可能性があるのですね。
なぜなら、生物の種というものはある特定のご先祖様が長い年月を経て少しずつ形を変えることで多様化していくのですね。
……つまり、ある1種類の動物を見つけたら、それと同じご先祖さまから生まれた似たような姿形の別の種類の動物が、必ずどこかにいるはずなのですね。
中にはツチブタのように他の近縁種は既に絶滅してしまい、今ではこれだけになってしまった、という生き物もいますが、それにしたって「絶滅種を含めれば似たようなのがいる」ということになります。
早い話が、「なまこポケモンはナマコブシ1種しか存在しない」というポケモン的な現象は自然界では起こり得ないのですね。
そして、常識破りな姿をしているということからもわかる通り、おそらくこのカニは「短尾下目」までは他のカニ類と一緒だったとしても、その下に属する分類(上科や科)は全く新しい未知のものになると思われます。
これは短尾下目の中に隠された未知の領域(上科や科)があることを示しており、またこのカニはその領域を代表する種となることに間違いはないでしょう。
……つまり、今回の発見は単なる1種類の「新種のカニ」の発見にとどまらず、まったく新しい分類群……科……下手をすると上科……の発見ということになるのですね。
そして当然近縁種がいるはずですから、その新しい分類群に属するそのほかのカニが何種も存在しているということを示唆することにもなり、下手をするとこれからイモヅル式に他のカニが見つかる可能性もあるのですね。
また、このキメラな姿こそが「カニ本来の姿」であり、今生きているカニ達はそこからさらに進化して今の姿になっていった……という新しい可能性が浮上してしまう可能性すらあるのですね。記事を読んだ限りではなんだかもう既にそうなってしまっているらしいですが。
……キメラガニがカニのご先祖様に!
……これは文字通りカニ界にとっては大いなる進展であり、激震なのですね。
キメラガニの近縁種が一体どういうものなのかも気になりますが、現在のカニとキメラガニとの進化的な関連性も大いに気になります。