絶滅種をよみがえらせる研究
Extinct……。
最近この英単語をよく見るのですね。
古生物の論文やレッドリストのカテゴリやなんかを見るようになったからかもしれません。
Vetulicola is an extinct genus of Early Cambrian deuterostome chordate ……みたいな記述をよく見るのですね。
この単語、英単語らしく子音ばかりでできているせいか、音の響きがなかなか独特で、個人的には好きだったりします。
いやまぁ、単語の意味自体は縁起でもないものですから、あんまり好きにはなれませんが……。
さて、朝日新聞さんに毎週月曜日に掲載される「科学の扉」という記事があるのですね。
これは文字通り今話題の科学技術について色々と書かれている記事なのですが、毎回面白いので、ついつい読んでしまうのですね。
けさも例にもれず面白い記事で、それによるとなんと、マンモスやタスマニアタイガーなどの絶滅した動物をよみがえらせる研究が進んでいるのだそうです。
………Extinct animal をよみがえらせる研究……なのですね。
本日は偶然にも(?)地球環境の保全と生物多様性について考えようという記念日「アースデイ」です。
……何だか偶然とは思えないのですね。
電子版があるのでいちおうリンクを貼っておきますが、残念ながらログインしないと読めないのですね……。
それにしても……こ、これは…………
………ジュラシックパーク……なのですね。
きっと近い将来「よみがえった恐竜専門の動物園」である「ジュラシックパーク」の如く、「よみがえった古生物専門の動物園」である「ネオジーンパーク」がどこかの離島にオープンし、世界中の注目を集めるに違いない!
これはいろんな意味ですごい研究です。
色々と妄想を膨らませながら読んでみたのですね。
映画のような夢の技術
絶滅動物をよみがえらせる技術……と一口に言っても、その内容は多岐にわたるようです。
ひとまず記事では、以下3通りの方法が紹介されていたのですね。
- クローン技術
- ゲノム編集技術
- iPS細胞
……なんだか見たことのあるような技術ばかりなのですね……最近のトレンドではありませぬか。
クローン技術は実際の絶滅種の動物から取り出した細胞の核を、今生きている動物の卵子に移植して育てるのですね。
上手くいけば今生きている動物の卵子が絶滅種の動物になるのですね。
これは今まで何度か実験が行われていますが、いろいろ問題があるらしく、大抵短命に終わってしまっているのですね……。
ゲノム編集技術は遺伝子解析済みの絶滅種によく似た動物(マンモスに対してアジアゾウなど)の遺伝子を書き換え、絶滅種の遺伝子にしてしまうことで、その動物を誕生させよう、という技術のようです。
……つまり、中身を書き換えてしまうのですね。
要するに「マンモスの設計図はわかっているから、アジアゾウの設計図を書き換えて、アジアゾウをマンモスに改造してしまおう」ということのようです。
……既存の種を改造して絶滅種にするってなんだか奇妙な感じがしますが、これで一応マンモスがよみがえるかもしれないのですね。
対するiPS細胞を使ったやり方は、絶滅種の細胞からiPS細胞を作り、さらにそれを卵子に変えてしまうことで、その動物をよみがえらせようという方法のようです。
卵子は全ての動物の発生の最初の形ですから、この部分が再現できれば必然的にその後の発生も再現できるのですね。
ここで紹介されていたのはこの3種類だけでしたが、同じ目的を達成するために、これだけ色々な技術が使えるとは……。
……ベッツリコーラもよみがえらないか知らん。
……などと淡い期待を描いてみたものの、これ、ちょっと問題があることに気付いたのですね。
というのも、少なくともこの3種類の技術を見る限りでは、動物をよみがえらせるためにはその動物の細胞そのもの……ないしは少なくともゲノムのデータが必要なのですね。
つまり、逆に言えば細胞や遺伝子が残っていない遥か太古の動物をよみがえらせることはできないのですね。
……当たり前か……。
遺伝子を収めている記録媒体であるDNAは、どんなに保存状態が良くても数百万年もすれば分解されてしまうという話もありますから、数万年くらい前の動物ならともかく、何億年も昔の動物をよみがえらせることは物理的にできないのですね……。
こちら、ディスカバリーチャンネルさんの記事です。
この記事では「恐竜に近い生き物(というか恐竜の子孫)である鳥の遺伝子などを改造することで、恐竜にそっくりな動物を作り出せる」というまさに上で書いた「ゲノム編集技術」を使った方法について述べているのですね。
ですが1億数千万~6600万年前に栄えた恐竜そのものを直接よみがえらせることはできないそうです。
……恐竜ですら不可能なら、5億年以上昔に生きていたベッツリコーラはさらに望みが薄いのですね……。
近い動物の遺伝子を改造するにしても、ベッツリコーラの系統はそもそもがカンブリア紀末の時点で途絶えており、直接の子孫もいないため、近い動物そのものを探すのが不可能なのですね。
う~ん……夢がありそうな技術ではありますが……同時に限界も見えてしまうのですね……。
懸念もある?
さて、上に書いたような「物理的な限界」以外にも、色々な問題点が同時に指摘されています。
まず立ちはだかるのは倫理面の問題なのですね。
……つまり、「人間がこんな風に命を作り出すなんてそれでいいと思っているのか!」……ということなのですね。
またそれ以外にも、そもそも今の環境に合わないから絶滅したのであり、絶滅した動物を今の環境下でよみがえらせてもちゃんと生きていけないだろう、とか、逆に今の世の中を昔の動物たちが闊歩することにより、現在の生態系を壊してしまうのではないか、とか、そういった類の問題もあるのですね。
……たとえば、サバンナの王者ライオンは、氷河期が終わったせいでライバルであったスミロドンが絶滅したため、今日のような王者になることができたのですね。
もしここでスミロドンをよみがえらせてサバンナに放ったとしたら、今度はライオンが王者の座を追われてしまうのですね。
……もちろんスミロドンが狩ることができるのはマンモスなどの氷河期の生き物ですから、マンモスを復活させずにスミロドンだけ復活させたとしても、結局はまた絶滅してしまうのは目に見えているのですが……。
また、コスト的な問題もあるようです。
記事によると、2017年にイギリスの科学雑誌(名前は出ていませんでしたがたぶん「ネイチャー」だと思います)にとある論文が発表されたのですね。
それによると、なんと「野生動物を保護するための予算を絶滅種の復活のために使えば、現存する野生動物が危険にさらされる」というのですね。
……つまり、「死んだ奴らをよみがえらせるカネがあるんなら、そのカネを使って今生きている奴らを助けろよ!」……ということなのですね。
確かに、絶滅種をよみがえらせるために現存種の保護がおざなりになってしまっては、これこそ本末転倒なのですね……。
よみがえらせていいのは最近の動物だけ?
こ、これは……
……紙面に書かれていた懸念だけで、私が思っていたことを全部言われてしまったのですね……。
きっとみんな同じことを考えているのでしょう。
おそらくよみがえらせていいのは、今の環境下で絶滅した動物たち……つまり、「つい最近まで生きていた」動物たちだけなのですね。
何万年も前の、今とは全く違う環境下で生きていた生き物の場合、たとえよみがえらせることができたとしても、どの道今の環境では暮らしていけません。
今の環境に適応できずにまた絶滅してしまうか、もしくは逆に今の生態系を壊してしまうという結末になってしまうのですね。
ならば、それこそジュラシックパークのように完全に人間の保護下で育てればいいではないかという声も聞こえてきそうですが、それでは結局タダのペットで終わってしまうのですね。
野生下でまた暮らすことができないのなら、一体何のためによみがえったというのでしょう。
その暮らしぶりを含めて全てを元通りにすることにより、初めて動物をよみがえらせたと言えるのではないでしょうか。
体だけをよみがえらせるのなら確かに今の技術でできるのかもしれません。
ですが暮らしぶり含めてすべてをよみがえらせるためには、環境そのものを元通りに作り変えてしまう必要があるのですね。
極端な話スミロドンだけをよみがえらせたとしても、野生下ではマンモスなどの大型草食動物がいなければ彼らは食べるものが無くて生きていけないのですね。
両方復活させるにしても、氷河期に生きたマンモスやスミロドンをよみがえらせるためには、もう一度「氷河期」が来なければならないのですね。
それはおそらく不可能でしょう。
かといって動物園で飼おうとすると、それはもはや野生動物とは言えなくなってしまいます。
現存する個体は人が飼っているもののみになり、野生化ではすでに絶滅している状態……それを「野生絶滅(EW)」というのですね。
この技術……確かに夢がありますが、色々な問題もはらんでいます。
実際にはおそらくかなり限定的な使い方しかできないのですね。
とりあえず、研究を進めるのならばまずはマンモスやスミロドンなどの「古生物」と呼ばれるような古い生き物ではなく、タスマニアタイガーやキタシロサイ、ピンタゾウガメなどの「ごく最近まで生きていた生き物たち」を復活させることを考えるのが先ではないでしょうか。