きつねとべっつりコーラのブログ。

きつねとべっつりコーラの2匹が、日々の出来事について思ったことや感じたことをただ淡々と述べていくだけのブログ。生物多め。

アリに感染する「タイワンアリタケ」 恐ろしい寄生キノコだけどワクチンがある?

アリに寄生するキノコの話

先日このような記事を書いたのですね。

blog.kitsune-vetulicola.net

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両方ともヤフーニュースさんに連載されているデイリー新潮さんの「えげつない寄生生物」という記事について書いたものでした。

今のところ3回掲載されており、近々19日に4回目が出る……とのことだったのですが、そういえば今日はもう19日になってしまったのでした。


と、言うわけで、ヤフーニュースさんを見てみると案の定以下の記事が掲載されていたのですね。

headlines.yahoo.co.jp


……はい、4回目です!

ちなみに新潮さんの記事は以下なのですね。

www.dailyshincho.jp


……こっちの方が画像が見やすいです。


1回目と2回目でゴキブリに寄生するハチのことを、3回目でカマキリに寄生するハリガネムシのことを書いていたので、今回も寄生生物は動物だろうと勝手に思っていたのですが……違いました。

なんとまさかのキノコだったのですね。


………記事では「カビ」と呼ばれていますが、それだとなんとなくきちゃない感じがするので、この記事では「キノコ」で統一しようと思います。

そんなことを言ったらカビという生き物に対して失礼な気もしなくもないのですが、記事にもあるようにカビとキノコの間に生物学的な区別はないため、名称の字面上の抵抗が無ければ(?)どちらで呼んでも構わないのですね。


なんにせよ、「キノコ」と呼べば少なくとも恐ろしい寄生生物がなんとなくおいしそうに思えてくるのですね。


タイワンアリタケ Ophiocordyceps unilateralis

さて………。

毎回一緒についてくる物語とイラストが寄生生物の世界観を見事に表してくれているのですね。

このキノコが一体どれほど「えげつない」かは問題の記事を見ていただくとして……。


記事によるとアリに感染していたのは「子嚢菌類(しのうきんるい)」と呼ばれる菌類(真菌)の一種なのだそうです。


子嚢菌類とは

真核生物ドメイン-菌界-子嚢菌門

に属する菌類の総称で、胞子を作る時に「子嚢」と呼ばれる嚢の中に詰め込むことで知られているのですね。


なんと、6億年前~5億年前、つまりエディアカラ紀の中盤からカンブリア紀にかけての間に既に出現していたようです。


また子嚢菌というのは「門」ですから、動物にたとえるなら「脊索動物」「節足動物」「軟体動物」などと言うのと同じくらい大雑把な分類なのですね。

この下にさらに「亜門」があり、「綱」があり、「目」があり、「科」があり、「属」があり、それからようやっと「種」にたどり着くわけなのですが、問題のキノコはどうやら学名「Ophiocordyceps unilateralis」という種類のようです。

「えげつない~」の記事には種類までは書かれていませんでしたが、なんと我らがはてなブログさんの中に、8年も前に書かれたこのキノコについての記事があり、そこではしっかり種類を名指しで特定してくれているのですね。

horikawad.hatenadiary.com


「Ophiocordyceps unilateralis」の生態を、わかりやすくイラストで解説してくれています。

おまけにBBCさんの動画まで引用してくれており、大変にわかりやすくまた大変気に入りましたので、まことに勝手ながらリンクを貼らせていただくのですね。


……動画を見るのは少々注意が必要かもしれませんが……。


またこのキノコ、残念ながら和名は無いのかなと思ったのですが、調べてみると「タイワンアリタケ」という名前が見つかりました!

以後、この記事でも「タイワンアリタケ」と呼ぶのですね!


カビ、キノコ、細菌

ところで、「えげつない~」の記事で「タイワンアリタケはカビかキノコか」ということに触れているのですね。

また同時に「真菌と細菌がどうの」とも言っています。


この辺ちょっとややこしいので、一旦整理するのですね。


まず、キノコやカビの仲間を「菌類」もしくは「真菌」と呼びます。


……面倒なのでここでは「真菌」に統一しましょう。


似たような言葉に「細菌」というのがあり、真菌と細菌は往々にして混同されがちなのですね。

ともすれば「菌」という生き物がおり、その中にさらに「真菌」と「細菌」という分類があるのか……などと思われることも結構多いようです。


ですがこの2つは同じ仲間ではなく、ドメインレベルで全く異なる生き物なのですね。


ドメインというのは「域」とも呼ばれ、生物の分類階級の1つなのですね。

分類階級は大きなものから順に


ドメイン(域)-界-門-綱-目-科-属-種


となっていますが、もっとも大きな分類階級であるドメインは、生物をその細胞レベルの構造の違いで分類したもので、今のところ3つのみが確認されています。

………なのですね。


「細菌」ドメインはそのまま細菌のことで、「古細菌」と合わせて「原核生物」などと呼んだりします。


対する「真核生物」は、細胞内に細胞核と呼ばれる細胞小器官をもつ生き物のことです。


「細胞小器官」というのは、細胞の中に何種類かあって、それぞれ様々な特定の機能を担当する部品のことで、要するに「細胞の内蔵」なのですね。

この中で「細胞核」というのは細胞の生殖や遺伝情報の保持など、かなり重要な役割を持つ器官なのですね。


これを持っているものが「真核生物」なのですね。


「真核生物」ドメインの下にはさらに植物が属する「アーケプラスチダ」や、動物や真菌が属する「オピストコンタ」といったグループがありますが、大事なのは「真菌」が「真核生物である」ということです。


……つまり、こういうことなのですね。


生物-細菌ドメイン ←これが細菌

生物-真核生物ドメイン-オピストコンタ-菌界 ←これが真菌、つまり、カビやキノコ

生物-真核生物ドメイン-アーケプラスチダ ←これが(狭い意味での)植物


……こうしてみると、細菌と真菌のちがいは一目瞭然なのですね。

キノコやカビは細菌とは違いますし、植物でもありません。むしろ分類上では動物に近い生き物なのですね。

記事には「真菌は細菌と違って、細胞内に核を持つ」とありますが、真菌に核があるのは真菌だからではなく、真核生物だからなのですね。


ちなみにわれわれ多細胞生物は全て真核生物です。

 

また、カビとキノコの違いに関しては……単に「子実体ができるかできないか」の違いでしかないのですね。

子実体とは胞子を作る器官であり、植物でいうところの「花」にあたるものです。


早い話が、われわれが「キノコ」と呼んでいるアレです。


つまり、カビとキノコの区別はあくまで「見た目」の違いであり、分類学的な違いではないのですね。


……イルカとクジラ、ワシとタカ、ガとチョウの違いみたいなものなのですね。


調べてみると大きな子実体ができているものをキノコというわけなので、マツタケやシメジなど、本来は「キノコ」と呼ばれる種類の菌類であっても、子実体を作る前の菌糸だけの状態では「カビ」と認識されることもあるようです。


……本当に適当なのですね。

このような適当な分類にも関わらず、「カビ」と呼ぶか「キノコ」と呼ぶかで聞く人の食欲の度合いが大きく変わってしまうのですから大変です。


「今バカマツタケを栽培してるんだけど、まだカビなんだ。もう二三日したらキノコになってくれると思うから収穫でき次第ごちそうするよ」


……などと言われたら、「キノコになった後」でもなんとなく食べたくないのですね。


……どちらで呼んでも変わらないのなら、とりあえず「キノコ」と呼んでおいた方が食欲が減退しなくてよさそうです(?)


またキノコに毒キノコとそうでないキノコがあるのと同じように、カビにも毒があるものとそうでないものがいるのですね。


……カビとキノコが同じものであるのなら、そうなるのは当然かもしれませんが……。


身近なところでは、日本酒を作るのに使われる麹カビ「Aspergillus oryzae」や、泡盛を作るのに使われる「Aspergillus awamori」には毒がないため、食品に入れても大丈夫なのですね。

ですが、同じ「アスペルギッルス属」のカビでも毒をもつものがおり、それらのカビを食品に使うのはご法度なのですね。


気門から感染するタイワンアリタケ

………大分話が逸れてしまったのですね。

我ながらどうしてこうなるのだろうか。


なんにせよタイワンアリタケは「真菌」であって「細菌」ではないということや、また「キノコ」か「カビ」かという呼び名については分類学的には「どちらでもいい」ということがこれでわかったのですね!


また真菌は卵でも種でもなく「胞子」という粉をばらまいて増えていきますが、タイワンアリタケの場合はアリさんがこの胞子を吸い込むことで感染してしまうのですね。


……空気感染………なのですね。


先の「えげつない~」の記事ではその過程も詳しく書かれています。


どうやらタイワンアリタケの胞子はアリの「気門」から体の中に侵入するようです。


私たち哺乳類は鼻から空気を吸い込み、肺で酸素を取り出して血液にとかし、その酸素を血液が体の隅々まで運ぶことで呼吸していますね。

ですがアリなどの昆虫の呼吸器系は「気管」と呼ばれるシステムになっています。


気管はその名の通り「空気が通る管」で、私たちの体の中にもあるアレです。

私たちの場合、気管は肺の中だけで終わっていますが、昆虫の場合はまるで血管のように体中に張り巡らされているのですね。


そして昆虫が吸い込んだ空気は血液にとけるのではなく、直接気管の中をとおって体の隅々にまで酸素を運ぶのですね。


……つまり、血液を介さずに直接吸い込んだ空気を体中に送る構造になっているのですね。


では血管はどうなのかというと、昆虫含める節足動物は「解放血管系」といって、心臓となる動脈以外の血管は存在せず、心臓からあふれ出した血液は直接体の中の隙間をめぐる仕組みになっているのですね。

また当然ですが酸素は運ばず、栄養のみを運ぶようになっています。


……つまり、「酸素の循環系」と「栄養の循環系」とが完全に別々になっているのですね。


昆虫は体が小さいため、一旦血液に酸素をとかすよりも、直接空気ごとめぐらせた方が効率がいいのですね。


そしてこの気管の入り口のことを「気門」といい、昆虫ではお腹の横に各体節に対応する形で付いているのですね。

 

………きつね、「えげつない~」のイラストの説明を見て気門の位置がなんかヘンだと思ってしまったのです。

イラストでは気門が胸の横にまでついています。


確かお腹の横だけだったような……?


ですが調べてみたらアリさんの場合は胸の横にもあるのですね……。

アリ同じ仲間であるハチもそうらしいです……?


……と、いうより、昆虫はもしかして全部すべてそうなのだろうか……。


……ちっとも知りませんでした。私の知識はこういう肝心なところで抜けがあるのですね。


なんにせよ、おかげで気門に対する理解が深まりました。

私の気門に対する知見に新たなる光明をもたらしてくれたイラストに感謝なのですね!

 

……などという私の個人的な感謝の話は置いておくことにして……。


タイワンアリタケの胞子はこの気門に吸い込まれることで感染するのですね。

昆虫の気管は全身を巡っていますから、ここに胞子が入るとあっという間に全身にまわってしまいそうです。

われわれにたとえて言うなら直接血管の中に胞子が入ってくるのと同じなのですね。


………怖すぎなのですね……。

免疫細胞で撃退できないのだろうか……。


恐ろしい寄生キノコだけど「ワクチン」が存在する?

とりあえず、最後に「子実体」を作って胞子をばらまくことによって他のアリたちに感染する、と記事にはあります。

逆に言えば感染したアリが巣に戻って普通に生活していても、他のアリたちにキノコがうつってしまうことはないのでしょう。


また最後はタイワンアリタケの生育に適したジメジメと温かい場所にある植物に噛み付き、そのまま死んでしまうとのことです。

記事にはこのアリを解剖したとありましたが……あんな小さいもの、一体どうやって解剖するのだろうか……。


と、いうより、アリが植物に噛み付いた時点で既に頭の中がタイワンアリタケの細胞で一杯になっているって……怖すぎるのですね……!


おまけにひとつのキノコから数えきれないほどたくさんの胞子がばらまかれるわけですから、そのうち森じゅうが胞子だらけになってしまい、アリが全滅してしまいそうですね。


ですが、アリさんたちには朗報なことに、実際にはそうはならないようです。


アメリカ、ペンシルバニア州立大学の昆虫学者デイビッド・ヒューズさんの研究によると、どうやら森の中にはタイワンアリタケの活動を抑制する別の菌類が生息しているようです。


……この菌類は新種らしく、まだ名前が付けられていないのですね。


なんにせよヒューズさんの研究によれば、その「ワクチン菌」により、タイワンアリタケの胞子は6.5%程度にまで抑えられてしまい、森中に拡散することはないのだそうです。


……なんだか夢のような話なのですが、きっと自然界のパワーバランスを保つための仕組みなのですね。

おそらくワクチン菌がいなければタイワンアリタケの感染力が強くなりすぎてしまい、アリさんたちが全滅してしまうに違いありません。


タイワンアリタケ……恐ろしいキノコですが、実際にアリに感染するのはごくわずかだけなのですね。


もしかするとアリさんたちがタイワンアリタケの感染で死亡する確率は、人間が交通事故に遭う確率よりも低いのではなかろうか……。


そう考えれば、不思議とタイワンアリタケもそんなに恐ろしいキノコではない気がしてきますね。

まぁもともと特定のアリにしか感染しないキノコなので、哺乳類である私たちにとってはそもそも恐ろしくもなんともないのですが……。


……哺乳類に感染するこんなキノコが発見されたら、絶対に近づきたくありませんけど!