「えげつない寄生生物」第1回と第2回
昨日の記事でカマキリに感染する寄生虫であるハリガネムシの話を読んだことについて書きました。
ヤフーニュースさん(もともとは「デイリー新潮」さん?)の「えげつない寄生生物」というシリーズの3回目ということでしたが……当然そんな半端なところから呼んでしまった以上、残りの回も読みたくなってしまうのですね。
第4回は今月19日更新だとのことなので……とりあえず、既存の第1回と第2回を読んでみたのですね。
両方とも同じ「エメラルドゴキブリバチ」というその名の通りゴキブリに寄生するハチについて書かれたものだったのですが……タイトル通りこれがまたえげつない!
以下、問題の記事なのですね。
第1回目(前編)
第2回目(後編)
例の如くわかりやすいイラストと詩的な物語が付属しております。
なんだか切ない……。
色々とゴキブリに感情移入してしまいます。
……このようなオソロシイ生物、感情の世界で生きる我々哺乳類では考えられないことですが、完全なる論理の世界に生きる昆虫の世界ではあり得てしまうのですね……。
エメラルドゴキブリバチ
さて……このハチのえげつない生態については記事を見て頂くとして……。
とりあえず気になったので例の如く調べてみたのですね。
エメラルドゴキブリバチは
動物界-脱皮動物上門-節足動物門-六脚亜門-昆虫綱-膜翅目(ハチ目)-細腰亜目(ハチ亜目)-ミツバチ上科-セナガアナバチ科-セナガアナバチ属
に属するハチで、学名を「Ampulex compressa」というのですね。
植物や昆虫に卵を産み、幼虫がそれを食べて育ついわゆる「寄生バチ」と、親が獲物を狩って巣にため、そこに卵を産み付けるいわゆる「狩りバチ」とのちょうど中間の習性を持っているのですね。
そのため寄生バチが狩りバチへと進化する途中の姿なのではないか……と思われます。
具体的には生きたゴキブリを狩って巣に連れて来、そこに卵を産むのですね。
そして卵から孵った幼虫はそのゴキブリを食べて育つわけなのですが……その過程が恐ろしすぎるのですね……。
またこのハチ自体は名前のとおりゴキブリを専門に狩るわけなのですが、ご本人はゴキブリの半分くらいの大きさしかないため、非常に特殊な方法で狩ったゴキブリを巣に運び込むのですね。
記事には「毒針を2回打ち込む」とあり、「最初は抵抗されないように胸部神経節を狙って前脚を麻痺させ」、次に「脳の逃避反射を司る部分を麻痺させて抵抗する気を失せさせる」とあります。
……ということはこのハチの毒はスズメバチやミツバチの毒のように細胞を直接攻撃する「溶血毒」ではなく、神経を麻痺させる「神経毒」……いわゆる「麻酔」なのですね。
ゴキブリに限らず節足動物の体というのはいくつかの「節(体節)」と、体節についている1対の「足(付属肢)」から成りますが、それぞれの体節の内部には「神経節」と呼ばれる小さな脳のような神経細胞の集まりがあるのですね。
それぞれちょうど「右脳と左脳」のように右と左とで対になっており、それぞれの体節や付属肢をコントロールしているわけですが、「頭部や胸部など複数の体節が癒合してひとつになった部分」では、これらの神経節も癒合してひとつになってしまうようです。
昆虫の場合、それが脳(頭部神経節)であったり胸部神経節であったりするのですね。
昆虫は運動に必要な翅や歩脚(歩くための付属肢。昆虫の6本の足)などの器官を全て胸部に集めるという方向性で進化した動物ですから、胸部神経節は第2の脳としてそれらの運動器官をコントロールしているのですね。
このように体中に「脳」が分散されて置かれているため、頭部を失った程度では昆虫は死なないわけなのですが……逆に言うとそれぞれの「脳」にピンポイントで麻酔をかけることができれば、その部分の機能だけを狙って麻痺させることができるのですね。
つまり、運動機能の中枢である「胸部神経節」に麻酔をかけることにより、昆虫は運動ができなくなってしまうのですね。
どうやらエメラルドゴキブリバチはこれを利用しているようです。
……ただしこのハチの麻酔の使い方はかなり独特です。
普通の狩りバチの場合は毒針の一撃で獲物を仮死状態にしてそのまま持って帰るのですね。
そのため自分が持てるほどの小さな獲物を狙います。
ですが獲物の体の中で幼虫が育つという寄生バチライクな特性上、このハチの獲物は自分より大きくなければいけないのですね。(小さな獲物では中に入れないため。)
ですが獲物を自分より大きくしてしまうと、今度は巣に持ち帰ることができません。
この辺狩りバチと寄生バチ両方の特長を持っているため、割と相いれないことになっているのですね。
そこでこのハチは二度目の麻酔で獲物の脳の一部だけを麻痺させ、「抵抗しようとする気力」を無くさせるのですね。
その上で巣に運び込むのではなく、獲物に自ら「来てもらう」のですね。
……なんだかひどく中途半端なのですね。いっそのこと麻酔一撃で仮死状態にしてしまう普通の狩りバチの方がずっと楽だと思うのですが……これではあまりにも手間がかかりすぎるのですね。
だからこそきっとここからさらに進化し、狩りバチというハチが生まれたのでしょう……。
なんにせよこのハチはかなり独特な生態を持つハチとして知られているようです。
ゴキブリ
さて……エメラルドゴキブリバチについて書いたところで……忘れていはいけないのがゴキブリなのですね。
ゴキブリというのは分類学的には
動物界-脱皮動物上門-節足動物門-六脚亜門-昆虫綱-網翅上目-ゴキブリ目
に属する昆虫のうち、「シロアリ科」に属する昆虫(つまりシロアリ)以外のものを総称していうのですね。
3億年前の石炭紀からその姿を殆ど変えずに脈々と生き続けている「生きている化石」です。
和名のゴキブリというのは元々「ゴキカブリ」で、「御器(食器)」を「かぶる」ことからこの名前になったのですね。
なんだか「マイマイカブリ」みたいなのですね。
それが明治時代の文献で「ゴキブリ」と誤植されてしまい、結局その名前が全国的に広まったのだそうです。
……誤植が正式名称になっただなんて、なんだか微妙ですが……。
また便宜上分類を「網翅上目-ゴキブリ目」として書きましたが、実際彼らの「目」には諸説あり、近縁である「カマキリ目」と合わせて「網翅目(もうしもく)」とする場合もあるのですね。
その場合ゴキブリは「網翅目-ゴキブリ亜目」となり、カマキリは「網翅目-カマキリ亜目」となるようです。
……上目、目、亜目のズレについては置いておくとして、なんにせよ一つ言えるのは、ゴキブリはシロアリの仲間であり、カマキリと近縁である、ということなのですね。
そういえば長い触角やお尻のツノ、網のような支脈を持つ翅など、共通点が多いのですね。
両者とも近縁の昆虫ではありますが、カマキリは人気者なのに対しゴキブリは嫌われてしまうだなんて、なんだか「いつも2人一緒でやってきたのに、片方は優遇されもう片方は不遇である」というポッキーとプリッツの関係もしくは某漫才コンビのような人間社会でよく見かける不条理をほうふつとさせるのですね。
また嫌われてしまう原因として、ゴキブリは一般的に衛生害虫……つまり「汚い虫」と言われていますが、それは汲み取り式トイレなどの「汚い場所」を平気で歩き回るからなのですね。
本人は体を「ヘプタコサジエン」と呼ばれる油のバリアで覆っており、細菌などの病原体に対して高い防御能力を持っているため、少々汚い場所にいても病気になることはありませんが、体に細菌を付けたまま色々な場所を歩き回るため、周りの環境を汚染してしまうと言われていたのですね。
ですが最近では一般家庭においてトイレといえば普通は水洗トイレという時代になりましたから、結果家の中に汚い場所が無くなり、ゴキブリも衛生害虫と呼べるほど汚い虫ではなくなったのですね。
つまり、今どきのゴキブリは「タダの虫」なのですね。
体が油で覆われているだなんてその時点でなんとなくきちゃない気もしないでもないのですが、そんなこと言ったら我々哺乳類だって皮膚の表面を皮脂という油で覆っているわけですから人のことは言えません。
なんにせよ最近のゴキブリは無理して駆除する必要もないのですが、それでも駆除したいと思う人は多いのですね。
ではそのためにこのエメラルドゴキブリバチは有効……なのでしょうか。
ゴキブリ退治ならクモに任せた方がいい?
さて……ゴキブリのみを狩るという何とも都合のいい(?)習性を持つエメラルドゴキブリバチですが、結論から言うと残念ながらゴキブリ対策としてはあまり有効ではないようです。
記事には「1941年にゴキブリ対策としてハワイでこのハチを放したが、縄張り行動が強くてあまり広い範囲に広がってくれず、また狩るゴキブリの数がゴキブリの生息数に比べると圧倒的に少なくて歯が立たなかった」とあります。
……早い話が、ゴキブリの数が多すぎて太刀打ちできなかったのですね。
でもこれは自然の摂理から考えれば不思議ではありませんね。
ゴキブリを狩りすぎて獲物が少なくなってしまえば、エメラルドゴキブリバチ自身が困ることになりますから、おそらく狩り尽くしてしまうということはしないのですね。
ただ、それはハチ自身が本来住んでいる地方での話なのですね。
ハワイにはもともとこのハチはいなかったはずですから、ハワイのゴキブリから見ればこのハチは外来種なのですね。
……外来種が入り込むことによって生態系のパワーバランスが崩れ、在来種が大幅に数を減らしてしまうということはよくありますから、もしかしたら持ち込んだ人はそれを期待したのかもしれません。
ですがどの道このハチはハワイのゴキブリの数を減らすほどの火力は持っていなかったようです。
なんにせよ、ゴキブリがこのハチに寄生されて死亡する確率は、おそらく人間が交通事故で亡くなる確率より低いのではないかと思われます。
とりあえず、エメラルドゴキブリバチは残念ながら日本にはいないため、対ゴキブリ要因としては期待できませんが、近縁種であるセナガアナバチとミツバセナガアナバチというハチがいるようです。
……きっと同じくゴキブリの繁殖能力には(在来種なので、外来種以上に)太刀打ちできないはずなので、どの道あんまり期待はできなさそうですが……。
またハチではありませんが、忘れてはならないのがアシダカグモという大きなクモなのですね。
こちらは一家に3匹いれば半年でその家のゴキブリが全滅すると言われている、文字通り文句なしのゴキブリハンターなのですね。
体が大きく、またタカアシガニの如く長い足を持ち(名前も「高」と「脚」が入れ替わっただけですね)、それ故に見た目の迫力もすごい上に走るのも速いので、初めて見るとビックリするかもしれませんが人には無害な益虫です。
しかしゴキブリに対しての戦闘能力はかなりのもので、一晩になんと20匹のゴキブリに咬み付いたという記録があるのだそうです。
アシダカグモも他のクモの例にもれず「人間には無害だが昆虫には有害な毒牙」を持っているため、それはおそらく一晩に20匹のゴキブリを退治したということと同じ意味なのですね。
こ、これは……。
もしかすると、対ゴキブリ要因としてはハチよりクモを動員する方が賢明なのかもしれません……。
ゴキブリに悩まされている家庭の皆様には、家の中でアシダカグモを見つけたら、きっとそれはゴキブリの出没に悩まされる生活を終わらせてくれる救世主であり、またご家族様には全くの無害な大人しい生き物なので、くれぐれも退治しないようにと申し上げておく次第であります……。