皇居のダニ、どんなダニ?
なにやら新種のダニが、しかも皇居で見つかったらしいですね。
……ダニっこ!
どうやら国立科学博物館が、2009~2013年度にかけて行った実施生物調査で皇居内の生き物を採集し、調べていたのですね。
そして新種はその中に含まれていたのですね。
博物館が発表したのは14日……バレンタインです!
昨日のオポチュニティの引退もそうですが、今年のバレンタインは色々なことが起きるのですね。
きっと今年はチョコレートがあわただしくなる年なのでしょう。
なんにせよ見つかったのは「アケハダニ属」の新種で、和名を「コウキョアケハダニ」というのですね。
……そのまんまじゃん。
12日付の国際学術誌「ズータクサ」にて論文が発表されたようです。
問題のズータクサ論文はここにあるのですね。
……字が小さくて読みづらい!?
おまけにどうやら会員登録しないとダウンロードできないような……?
……Abstract(概要)だけなら見られますからまぁいいか……。
なんにせよ、新種のアケハダニは皇居内の生物学研究所近くにあるヤマグワの葉から見つかったのですね。
……なるほど、どうやらヤマグワの葉に住むダニのようです……?
……きっと皇居の固有種なのでしょう。
おそらく昔から続く神聖な雰囲気の中で独自の進化を遂げてしまったに違いありません。
このダニについてまだ詳しい情報がイマイチ無いようなのですが、とりあえずアケハダニの一種ということなので、アケハダニについて書いてみるのですね。
同じ属である以上、以下の特徴は新種のダニについても大部分当てはまるはずです。
アケハダニ
アケハダニというのは
動物界-節足動物門-鋏角亜門-クモ綱-ダニ目-ケダニ亜目-ハダニ上科-ハダニ科-ナミハダニ亜科-アケハダニ属
に属するダニの仲間で、学名を「Eotetranychus」というのですね。
「エオテートラニュクス」……?
なんて読むのかわかりませんが、ギリシア語のようです。
ダニ目の動物のことを総称して「ダニ」といいます。
とても小さな動物ですが、彼らはれっきとした「鋏角亜門」……つまり、クモやサソリやカブトガニの仲間なのですね。(カブトガニは「クモ綱」である他の2つと違って「カブトガニ綱」ですが「鋏角亜門」までは同じです。)
……「亜門」だの「綱」だのの分類階級に関しての詳細はこちらをどうぞ。
このグループの特徴は名前にもなっている「鋏角(きょうかく)」という付属肢を持っていることなのですね。
付属肢……というのは節足動物の体のそれぞれの節に付いている関節のついた器官のことで、足や触角、大あごなど、用途に応じて様々なかたちに変化します。
鋏角は昆虫の「触角」に相当する付属肢ですが、この仲間では文字通り「ハサミの形」をしており、丁度サソリのハサミを小さく、短くしたような感じのをイメージするとわかりやすいのですね。
このハサミは口の前側にあり、口器……つまり「口の一部」として機能し、食べ物を噛んだり獲物に咬み付いたりすることができます。
ちょうど昆虫の「大あご」「小あご」に似ているのですね。
……触角が「あご」になるって……。
……まぁいいか。
殆どの鋏角類に同じくダニの鋏角も、左右それぞれが文字通り「ハサミ」の形をしており、これで食べ物を挟むのですね。
ただしアケハダニ含むハダニ科の場合は左右の鋏角が1つに合わさって針のような形になっており、これを植物の葉に刺して汁を吸うそうです。
……なるほどそれで「葉壁蝨(はだに)」なのですね。
……なんだかセミやチョウを思い出しますね。
彼らの口の「針」や「ストロー」も、元はといえば顔の付属肢の2つである「大あご」「小あご」(チョウは「小あご」のみ)が左右合わさって1つになったものでした。
似たようなやり方で植物の汁を吸うハダニ科のダニも、同じような進化をしてきたのですね。
ただ、もちろんダニは昆虫ではありませんし、鋏角亜門は分類的には昆虫とはかなり縁遠いグループなのですね。
(むしろ昆虫は甲殻類から分岐したグループだと考えられています。なんと、昆虫はクモよりもエビやカニに近い仲間なのですね!)
またアケハダニ含むハダニには他のダニには無い特技があるそうで、なんと糸を出せるのですね。
……クモ綱ですからクモと同じようにお尻から出すのだろうと思ったのですが、どうやら「触肢(しょくし)」から出すようです。
触肢というのは鋏角の1つ後ろについている付属肢のことで、クモやダニでは小さくなって昆虫の触角のような役割をしており、逆にサソリの場合は大きくなってハサミになっているのですね。
なんだかグループによって役割がころころ変わるのでややこしいですが、この後ろにクモやサソリのいわゆる「8本の足」がついているわけなので……つまり、触肢は万能な役割を持つ「腕」みたいなものなのですね。
「腕」から「糸を出す」って……。
……「スパイダーマン」……なのですね。
きっとハダニはこの糸を使って枝の間を飛び回り、おいしそうな葉っぱを探しながら小動物界の特撮ヒーローとして悪の怪人ならぬ怪虫と戦うに違いない!
人畜無害なハダニ
……アケハダニのことを書こうと思ったのに……いつの間にかさらに上の分類であるハダニやダニそのものについて書いてしまったのですね。
じつはアケハダニの資料を探したところ、見事に見つからなかったのですね。
どうやらダニというものは4万5000種もいるにもかかわらずあまり研究が進んでいないのだそうです。
……つまり、身近なようでいてかなりマイナーな分野なのですね。
おそらく数が多すぎて人手が足りないというのと、また「ダニ=害虫」という負のイメージのせいで人が集まりにくいのではないかと思われます。
なんだ、きつねが資料を見つけられなくても不思議じゃないのですね。
……ですが、断っておきますが、ハダニも含めてほとんどのダニというものはわれわれ哺乳類にとっては無害です。
一般的に言われる「害虫としてのダニ」とはすなわち「血を吸うダニ」のことであり、血を吸うダニとは「マダニ」のことで、こちらは
動物界-節足動物門-鋏角亜門-クモ綱-ダニ目-マダニ亜目-マダニ科
に属する大型のダニの仲間なのですね。
そしてこのマダニの仲間以外のダニは基本的には「動物の血は吸わない」のですね。
……トゲダニ亜目のイエダニ、ハダニと同じケダニ亜目のツメダニなど、たまに成り行きで「人の血を吸う」ダニもいますし、吸わなかったとしても家屋に忍び込んでハウスダストを量産するダニもいますが少数派です。
なんにせよ「ダニ」というフレーズだけで「=害虫」呼ばわりされる筋合いはねぇ!……なのですね。
英語やドイツ語、中国語にはマダニとダニの間には明確な区別があり、両者を指す語彙も異なるのですが、なぜか日本語では両方とも「ダニ」とひとくくりにされてしまうのですね。
まぁ両方ともダニであることには変わらないので、「人の血を吸うかどうか」で区別する英語などよりも日本語の名前の区別のしかたの方が分類学的には正しいのですが……。
なんにせよハダニ科に属するアケハダニの食べ物はあくまで「植物の汁」であり、「動物の生血」ではありません。
そのため動物にとっては悪い影響はない虫なので安心して接触できるのですね。
……ただ、もちろん植物にとっては厄介な相手であり、ハダニに汁を吸われると病気になったり育ちが悪くなったりするのですね。
この辺はクサギカメムシやアブラムシなどの「植物の汁を吸う昆虫」を思い起こさせますね。
なのでハダニは農家の人たちなど植物に関わる人にとっても難敵なのですが、さすがに植物を枯らしてしまうということはないようで、寄生していた植物の調子が悪くなると他の植物へ移動するのですね。
まるでシマウマがサバンナの草を食べ尽くさないように絶えず移動を繰り返すかのようです。
ハダニたちが枯れかけた植物を見て「あっそろそろやばい」とスパイダーマンのように糸を使って他所の植物へ移動する姿が想像できてしまいますね(?)。
……実際の「ハダニの糸」は(ヒーローではない方の)クモやイモムシの糸と同じくあくまで「タダの命綱」であり、あのように遠くまで飛ばすことはできないようですが……。
博物館で展示中!?
なんにせよ、今回見つかったのはこの「植物の汁を吸うアケハダニ属の新種」なのでしたね。
残念ながら学名まではわからなかったのですが、アケハダニ属(Eotetranychus属)である以上「Eotetranychus ~」という名前になるに違いありません。
……「Eotetranychus koukyoensis」……?
……「皇居」だけに……。
……知らないけど。
ともあれ、日本でアケハダニの新種が確認されるのは実に10年ぶりなのだそうですからきっととてもおめでたいことなのですね。
また国立博物館の企画展にて3月末まで展示されるそうですから、気になる人は見に行くと良いのかもしれません。
……きつねも行ってみようか知らん。遠いけど。
たった0.5ミリの小さな虫を見るために電車を乗り継いでそんなに遠くまで行くって……なんだか微妙ですが大発見なのですから仕方がありません。