きつねとべっつりコーラのブログ。

きつねとべっつりコーラの2匹が、日々の出来事について思ったことや感じたことをただ淡々と述べていくだけのブログ。生物多め。

NHKスペシャルのセラピー犬の話 感動的な実話なのに素直に感動できない自分

NHKスペシャル「ベイリーとゆいちゃん」

今月27日の日曜日に、NHKスペシャルで「ベイリーとゆいちゃん」という番組をやっていたのですね。

これは難病を治すために大手術を受ける10歳の女の子ゆいちゃんと、彼女に寄り添い癒しながら、共に苦難を乗り越えていくセラピー犬ベイリーのお話なのですね。

今となっては「セラピー犬」という概念も割とメジャーになりましたし、またベイリーは日本のセラピー犬の先駆けとしてそのきっかけを作ったすごい犬です。

ですがそもそもどうして犬と人は種が違うにもかかわらず互いに愛情を感じ、心を癒すことができるのか……番組ではその謎にも迫っているのですね。

つまり、最近ではその仕組みが最近解明されつつあるという事実を紹介する科学的な番組であり、同時に純粋に女の子と犬が共に試練に立ち向かうという感動的な友情ドキュメンタリー番組でもあるのですね。

最後は手術が無事に成功してゆいちゃんはめでたく退院、またベイリーは引退して余生を満喫するというハッピーエンドで終わるわけなのですが、犬と人は3万年もの長きにわたり一緒に暮らしてきたため、このようにお互いに強い絆をもったのですね。


……とても感動的な番組だったのですが、途中で1つ、気になることがあったのですね。


おかげでかんじんのその後の感動的な部分がなかなか頭に入ってこないという困ったことになってしまいました……。

録画してあるので何度でも見直せるのですが……。


ロシアの研究所のキツネ

さて……、この番組、真ん中辺りの「犬と人が仲良くなったメカニズムが解明された」というくだりで、場面はそのカギを握るとあるロシアの研究所になったのですね。

そこでナレーションは「……実験動物が飼育されている……」と続いており、同時にたくさんのケージが並ぶ敷地と、それぞれのケージに1匹ずつ入ったギンギツネ達が映し出されるのですね。


ギンギツネというのは「キツネ」という言葉の代名詞にもなっている「アカギツネ(Vuples vulpes)」の色違いで、名前のとおり黒い地の背中に銀色の模様があるのですね。
どうやら「Vulpes vulpes fulvus」という亜種小名を持つ亜種扱いのようで、主に毛皮動物として飼われているのですね……ん!?


……この子たちが「実験動物」って……ま、まさか……!!

まさか……このあと「その時」が来たらここにいる子たちは「怪しいお部屋」に連れていかれ、冷たい金属の台の上に仰向けにさせられて手足を縛りつけられ、文字通り無防備な「大の字」にされてしまい、研究者たちによってあんなことやこんなことをされてしまうのではなかろうか……。
そしてその後はもはや「ガス室で処分」もしくはお尻と口に電極を入れられて「電機屠殺」となり、「実験」により毛皮に傷がついていなければそのまま毛皮を剥がれて毛皮のコートにされてしまうに違いない!

そうか、だから「ギンギツネ」なのか!

……こ、これは……。

いきなり危ない所に来てしまいました。


まさにここは「キツネたちの強制収容所」です!


NHKさん一体ドコに潜入取材に行っているのでしょうか……。
いくら最近民放化しているといってもさすがにそれはマズいのでは……。


これにより自称「動物好き」な人たちの多くが「見て見ぬふりをする」もしくは「全く気付くことすらない」この世界の「裏の顔」が一気に表に露見してしまうことになります。
いや、私の立場から言えば「露見してしまった方がいい」のですが、「動物という動物を慈しみ愛する」多くの「動物好き」のみなさんはそれを望んでいないことでしょう。


きっと次の日から全国各地の「動物好き」からの「このままずっと見て見ぬふりをし続けていたかったのにあんな裏の事情公表するんじゃねーや!」という「動物への慈愛に満ちた」電話が鳴り止まなくなり、NHKさんはクレーム対応に追われ続けるに違いない!


……などと妄想していたら、実は違うようです。
実験は実験でも「交配実験」なのですね。

……つまり、野生動物であったオオカミが、どのようにして犬になっていったのか、それを探るために「実際に野生動物を交配させて品種改良し、『犬化』できないか」という実験を行っている施設なのですね。

オオカミは飼育が難しいため、おなじイヌ科であるキツネで実験しているようです。
つまり、ここでは単にキツネを育てて「犬のように人に懐きやすい個体」を増やそうとしているだけなのですね。


……なんだ、よく巷でポケモン廃人たちがやっている「厳選」と同じなのですね。


とりあえず、キツネたちがこの後手足を縛られていろんなことをされたり毛皮にされたりするようなことはないのですね。

………ほっ………。


なんにせよ、この実験により実際にキツネが「犬化」し、そのプロセスが明確になってきたようです。
これにより先人たちが一体どうやってオオカミを犬にしたのかがわかってきたのですね。


……この研究、実は私も知っていたのですね。
立場上人間から見たキツネのことをよく調べるので、その時にたまたま検索にヒットしたのですね。

ですが実際に映像として見るのは初めてでしたので、どうにも昔見た「毛皮農場」のイメージと被ってしまったのですね。


……確かにケージが沢山並んでいてキツネが1匹ずつ入っている、というところまでは同じです。


なんにせよ、この交配実験は旧ソ連時代にまでさかのぼるのですね。


旧ソ連時代から続く壮大な研究

この研究機関はシベリアのノボシビルスクにある、ロシア科学アカデミーのシベリア支部に所属する細胞学遺伝学研究所(Institute of Cytology and Genetics)なのですね。
そしてこの実験を始めたのは当時ここの所長だったドミトリ・ベリャーエフさんなのですね。

ベリャーエフさんはすでに亡くなっていますが、研究自体は愛弟子のリュドミーラ・トルートさんに引き継がれ、今でも続いているのですね。

最初は毛皮農場からもらってきた(買ってきた?)ギンギツネのオス30匹と、メス100匹からスタートしたのですね。


……それでギンギツネなのですね。


「人に懐きやすい」キツネ同士を掛け合わせ、その子供でまた「人に懐きやすい」個体を掛け合わせ……と世代を重ねていったのだそうです。


さいころから人が育てていれば有無を言わさず「懐きやすい」キツネになりそうですが、この研究で目指したのはそのような「後天的な懐きやすさ」ではなく「生まれつきの先天的な懐きやすさ」なのですね。
そのため人の接触は最低限にしているのですね。


そして10代目を超える辺りから既に「生まれつき人懐っこいキツネ」が誕生し、56代目を迎えた現在では「芸を覚えるキツネ」まで出てきているのですね。


……生まれつき人懐っこいって……一体どういう仕組みなんでしょう。

いや、もちろん特定の遺伝子が関わっていることは解明されているのですが、そもそも人とは最低限の接触だけをしており、人間を知らないはずのキツネが人間に甘えたがるなんてなんだか信じられません……。


また耳が折れる、尻尾が巻きあがる、鼻が短くなる、模様が増えるなど、外見まで犬のような形に変化していき、文字通り本当に「犬化」したのですね。

これにより先人たちが数百年かけて狼から犬を生み出した工程を、わずか数十年で再現できたのだそうです。


……ただ、色々と苦労もあったようです。

まず当時のロシア(ソ連)では遺伝学の研究がタブー視されていたらしく、下手をすると捕まりかねなかったのですね。
……タブーとされている研究をしただけで逮捕されてしまうなんてなんだか怖いところですが、そのため名目上は「より毛皮を取りやすいキツネを作るための研究」として始まったのですね……にゃぁ。

また、いくら短時間で犬化できたと言っても数十年は掛かっています。

研究者たちにとっては文字通り一生をかけた壮大な実験だったのですね。

途中に何度か研究存続の危機や資金難にも見舞われたそうなのですが、先生から弟子へと無事に引き継がれ、今に至るのですね。


……なんだか裏に「プロジェクトX」のようなドラマがあるのですね。同じNHKだし。


また今ではこの研究所は「人懐っこいキツネをペットとして購入できる世界で唯一の場所」になっているのだそうですね。
価格は1匹あたり81万円とペットにしてはとてつもなく高価なのですが、キツネ好きにはたまらないようです……?


また、テレビでは「懐くグループ」と「狂暴なグループ」が紹介されており、「狂暴な」方を「普通のキツネ」といっていたのですが……キツネってそんなに狂暴でもないはずじゃ……?

実際はこの研究所では比較のため「懐くグループ」同士、また「懐きにくいグループ」同士が交配を重ねているようです。もしかすると「普通のキツネ」はそもそも残っていないのかもしれません。


……そういうことなのかな……。


でもやっぱり「動物実験」であることには変わりない?

ただ、幾つか気になったこともあるのですね……。

檻、狭いんじゃ……。

そもそもキツネは活発で野山を駆け回りたい動物ですから、犬に同じく狭いところに閉じこもっているのはかなりのストレスになるのですね……。

おそらく上記の通り「懐きやすい個体」もしくは「懐きにくい個体」同士を繁殖させたいため、それを見極める前に勝手に繁殖されないようキツネ同士は離しておかなければならないものと思われます。
そのために檻に入れておかなければならないのでしょう……多分。

せめてもう少し大きな檻にしてあげたほうがいいのではないかと思うのですが、この研究所には既に数千匹のキツネが住んでいるといいますし、物理的な場所の事情もあるようです。

せめて「散歩」くらいはさせてあげてもいいと思うのですが、何千匹もいるためそれも難しいものと思われます。

また上にも書いた通り、あくまで「生まれつきの人懐っこさ」を研究しているため、それ以外の要因で人になついてしまわないよう人間との接触を避けるため……とも思われます。


ですがこの飼育環境……見た限りでは毛皮農場と大して変わらないのですね。


また、ここにいる子たちは一生檻から出られないのですね。

研究者の皆さんも一生をかけて研究していますが、キツネたちも死ぬまでこのままです。


それにここでは「懐きやすい個体」もしくは「懐きにくい個体」以外は生殖することもできませんから、交配しない子は外に出してあげてもいいんじゃ……。

……遺伝子汚染を避けたいのだろうか……。

いや、そもそも彼らは最初から飼育下で生まれているので、どうにも自然には帰せないようです。

……もちろん「用済みになったら毛皮にされる」などということはなく、最後までスタッフの皆さんが責任を持って面倒を見て下さっているようなのですが………………だよね!!??

……この部分もかなり疑問なのですね。ここのスタッフさんのことですから、ちゃんと最後まで面倒を見ていると信じたいですが。


それから、1995年には600匹いた「非常によく懐くキツネ」が、その後の経済危機で「200匹まで削減された」というのも気になります。

……「削減」された400匹は一体どこに行ったのでしょう……。

体よく81万円でペットとして売って、今では新しい飼い主さんの元で幸せな暮らしをしているのでしょうか。
それとも泣く泣く「毛皮にしてしまった」のでしょうか……。


また、ここにいる子たちは外に出たいとは思わないのでしょうか……。
……最初からこういう環境で育っているキツネたちなので、外の世界を知らず、そもそも出たいとも思っていない……とすればいいのですが……。


結局どうするべきなのだろうか

……「ベイリーとゆいちゃん」……。
感動的な犬と人の友情物語を見ていたはずなのに、なんだか悩ましい問題に直面してしまったようです。

多くの「自称動物好き」の人がおそらく「犬と人の友情に感動」「人懐っこいキツネさんかわいい~」などという感想を述べるだけであろうこの番組を見て、このようなことまで考えてしまう私の感覚はいささかおかしいのかもしれません。


実は最初ははっきりと「このような実験には反対だ」と言いたかったですし、この記事の結論としてもそう書くつもりだったのですね。


……ですが、実際にこの研究所について調べてみると、この研究のおかげで「懐きやすさ」の遺伝のメカニズムだけでなく、体が犬化したり模様が変わったりする遺伝子の秘密など、色々なことがわかってきていますし、それが科学や生物学の発展に大いに貢献しているということもまた事実だということがわかったのですね。

そしてやがてはそれらの知識が動物のために活かされるであろうということも……。


それに、この研究所の「実験」は他の動物実験と比べると遥かに良心的なのですね。

別にヘンな薬を注射したりするわけでもなければ台の上に縛り付けて体を切り刻むわけでもありません。あくまで「交配実験」なので、「交配する相手を人間が選ぶ」というところ以外、キツネたちは「ただ飼われているだけ」です。


また、職員の皆さんは本当に動物が好きで、ここのキツネたちを大切にしているということもわかるのですね。

そもそも元々が毛皮農場から「救出」されてきたキツネなので、一生檻から出られないとしてもここで毛皮にならずに天寿を全うできるのはそれなりに意義のある事ではないのだろうか……とも思うのです。
(天寿を全う……できるんだよね?途中で毛皮にされたりしないよね!?)

「飼育員たちは不親切。時が来れば檻から出られますが、毛皮になって下さい」と「一生出られませんが、みんな優しいし天寿を全うできます」、どっちがいいのだろうか……立場上私は後者を選びますが。


悩ましいところですし明確な答えが出せないのですが、それが自分が思った素直な感想ですし、とりあえずここは自分が感じたままを書いておくことにします。

将来の自分がこの記事を読み返した時、きっと「なにヌルいこと書いてんだ、もっと批判しろよ」などと思うかもしれませんが、残念ながらそれが今の私……2019年1月31日現在のきつねの出せる結論の限界なのですね。

とりあえず、今は研究所のキツネたちが「そもそも自分たちは外に出ても生活ができない。ここは狭い檻で走り回れないけど掃除はちゃんとしてもらってるしそこそこ快適で食べ物にも困らないからこれはこれでOK」と思ってくれている……ことを祈るしかありません。

結局自分が幸か不幸かを決めるのは研究所のキツネたち自身であり、町中で人間として生活している私がどうこう言えることではないのですね。