化研が巨大オセロを寄贈
水戸市に拠点を構える株式会社化研さんが、同市市役所の新庁舎に巨大なオセロ盤を寄贈したそうですね。
寄贈されたオセロ盤は3種類3台あって、それぞれマス目が4×4、6×6、8×8(通常)となっているようです。
また一番大きな盤は8×8のもので、縦212×横149センチもあるのですね。
それぞれ駅前によくある案内板のような形をしていて縦に設置されており、防風用のシャッターまで付いているといいますからなんともデラックスです。
今月16日に除幕式が行われたそうで、そのあとは早速地元の小学生たちが珍しい大盤でゲームをしていたのですね。
株式会社化研の代表取締役会長、蓼沼克嘉さんは「水戸の先人が生んだゲームがより多くの人に根づき、子どもたちがワクワクしながら楽しんでもらえたらいい」「オセロが広まってくれたら」と仰っていたそうです。
……すごいですね、オセロ盤……。
テレビで見たのですが観光案内のような外見がインパクト大です。
しかし、こんなものを寄贈って……一体何があったのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
オセロはどんなゲーム
まず、オセロについてざっと……。
いつぞやの世界チャンピオン誕生の記事でも書きましたが、オセロは元々水戸市の製薬会社社員であり、ボードゲーム研究科でもあった長谷川五郎さんが、取引先の病院の患者さんたちが楽しめるようにと開発されたボードゲームなのですね。
その原型は長谷川さんが少年時代、友達と碁盤と碁石を使って遊んでいたゲームにまでさかのぼりますが、病院で開発した時点では既によりマス目を少なくした盤を使うようになっていたのですね。
製品化する前はチェス盤と牛乳瓶のフタを使った手作り感満載のゲームでしたが、周囲に勧められ玩具メーカーである旧ツクダオリジナルさん(現メガハウスさん)に持ち込み、その翌年……1973年の4月にめでたく商品化して発売されたのですね。
牛乳瓶のフタを使っていたころの名残で公式サイズのオセロ石と牛乳瓶のフタとが同じ大きさであるということはあまりにも有名です。
またチェス盤を使っていた頃の名残が石の初期配置……「White to Right(それぞれのプレイヤーから見て白石が右下で黒石が左下になるように中央に四つ配置する)」にも表れています。
チェス盤は「Light to Right」で、中央のマス含めて左下と右下のマスの色の関係がオセロの石の色の配置と同じ関係になるのですね。
また、知っての通りオセロは分類学的には
遊戯界-盤遊戯門(ボードゲーム門)-升盤亜門(スゴロク亜門)-等升綱-囲碁目-オセロ科-オセロ属
に所属しており、学名を「Othello hasegawai(オーテッロ・ハセガワイー)」と言いますね。
本種のみで「オセロ属」を構成しています。
同じ「囲碁目」には囲碁や連珠を含む「囲碁科-囲碁属」が属していることは割とよく知られていますね。
………冗談です。
なんにせよオセロは日本の茨城県水戸市が発祥のれっきとした「Ludus japonicus(ルードゥス・ヤポニクス)」……つまり、「ジャパニーズゲーム」なのですね。
また囲碁や将棋、チェスなどの同じ等升綱のゲームと比べるとルールが非常にシンプルであることでも知られていますね。
将棋やチェスは駒の動きを覚えるまでが大変ですから、ひとりで指せるようになるまでにはそこそこ時間がかかってしまいます。
囲碁は基本こそシンプルですが様々な規則や複雑な勝敗判定があり、ひとりで打てるようになるまではかなりの時間がかかると言われています。私もまったく理解できていません。
その点「自分の石で相手の石を挟めば自分の石になる」というオセロは5分もあればひとりで打てるようになるのですね。
……勝てるかどうかは別として。
また当初から割と積極的に海外に進出しようとしていたようです。
今では毎年ちゃんと世界大会が開かれており、オセロは今や「盤ゲーム界の『エスペラント(世界共通語)』」と呼ばれるようになったのですね。
また今年の世界大会では小学生の男の子が優勝したというニュースは記憶に新しいですね。
いいですねぇ……このグローバル感。素晴らしいです。
これで世界のどこの人ともオセロが楽しめるのですね。
チェス、囲碁、オセロと同じように将棋にもグローバル感があればいいのに……。
寄贈された大盤オセロ
さて、本題です。
今回の大盤オセロの寄贈を行った化研さんは水戸市堀町で化学技術を駆使した研究・開発を行っている会社なのですね。
ことし2018年の3月10日にも水戸市立新小学校荘に同型の(?)オセロ盤を貸し出したことがあり、この時のオセロ盤も今回のオセロ盤同様自分たちで制作したものなのだそうです。
……なぜ化学技術の会社がオセロ盤の制作を!?
ちょっと……いろいろと謎なのですが、おそらく普段から使用している技術がオセロ盤の製造に応用できるのではないか……と思われます。
また目的に関しては「地元発祥のオセロに親しんでもらおう」という思いがあったのですね。
てっきり「水戸市役所新庁舎の完成を祝って」だと思ったのですがもっと崇高な目的だったのですね。
きっと会長の蓼沼さんは水戸市の中でも五本の指に入るオセロ好きに違いありません。
もしかして小学校に貸し出したのも子供たちにオセロに親しんでほしかったからなのでしょうか。
小学校の公式サイトを見てみても理由についての記述は見つけることができなかったのですが、きっと蓼沼さんはオセロをみんなに広めたかったのではないかと思います。
なぜなら今回の大盤オセロも「いつでも誰でも」がコンセプトなのですね。
これは通常のオセロのように盤の上に石を置いていくのではなく、盤そのもののそれぞれのマス目に白、黒、緑(つまり地の色)の3色を表す玉が嵌め込まれていて、それを回すことで「白石」「黒石」「空のマス」を表現する仕組みになっているのですね。
こ……これは……!!
……大回転オセロだ!
……ええと、メガハウスさんから発売されているオセロ盤の中に似たような仕組みのものがあるのですが、それが「大回転オセロ」というのですね。
こちらは「球体」ではなく「三角柱型に組まれた盤の一部」のようですが、使い方はあまり変わらないと思われます。
「石が内蔵された新感覚オセロ盤」という名目でメーカー希望小売価格3300円にて好評発売中です!
他にも「持ち歩きに便利な石内蔵型のオセロ」である「大回転オセロミニ」(1200円)もあるのですね。
これで………石はもう、なくならない!
また今回寄贈された盤は色ごとに手触りが違うらしく、目の不自由な人でも楽しめるように工夫されているのだそうです。
……まさに「いつでも誰でも」ですね……!
蓼沼さんの心遣いが感じられます!
メガハウスとの関係は?
……ただし、1つ気になることがあります。
盤にはメガハウスさん公式の「Othello」のロゴが入っていたように見えたのですが……化研さんはメガハウスさんと提携しているのでしょうか。
……というのも、「オセロ」という名称はメガハウスさんの登録商標ですから、基本的にはメガハウスさんが作ったオセロ盤以外は「オセロ」を名乗ることができないのですね。
オセロというゲームそのもののルールは公表されていますし他の会社がオセロ盤を作ることもできるのですが、その場合は「オセロ」の名前は使えず、代わりに「リバーシ」という名称を用いることが暗黙の了解となっているようです。
「リバーシ」……「源平碁」という名前自体は元々1883年にイギリスのルイス・ウォーターマンさんという方が考案したボードゲームの名称であり、「オセロ」とは別系統のゲームなのですが、ルールが「オセロ」にそっくりなため、「オセロ」の別名として日本で定着していったものと思われます。
今現在日本で「リバーシ」といえば「ウォーターマンさんの源平碁」ではなく「メガハウスさん以外のメーカーさんが出しているオセロ」という解釈になっていますね。
そのため「オセロ」と「ウォーターマンさんの源平碁」を同一視する風潮もありますが、両者は全く別系統のゲームです。
囲碁などの共通の祖先を持っている可能性はありますが。
なお、長谷川さんの「オセロ」とウォーターマンさんの「リバーシ」が似ているのは、どちらかがどちらかを参考にしたからというわけではなく、たまたまそっくりになってしまっただけのようです。
このように全く別系統のものが同じような形になってしまうことを生物学的には「収斂進化」、より我々にわかりやすい言葉では「カップ焼きそば現象」といいますね。
ともあれ、メガハウスさん以外のメーカーさんが作ったオセロ盤は基本的には「リバーシ」という名称を用いなければならないはずなので、今回化研さんのオセロ盤に「Othello」のロゴが描かれている理由が非常に気になるわけです。
詳しいいきさつは残念ながらわかりませんでしたが……きっと許可をもらったのだろう。うん、そうに違いない。
気になる水戸市のオセロ事情
……ところで……、除幕式は立て替えたばかりの新しい水戸市役所の庁舎の南側テラス前で行われたのですね。
それは盤が設置された場所がそこだったからなのでしょうが、まだ1つ気になることがあります。
ニュースには「除幕式の後は地元の市立千波小の児童たちが打ち初めして腕を競った」……と書いてあったのですが……。
う……「腕を競った」……?
こ……これは……。
「既にオセロに親しんでおり、また割と高度な技術を持つ者同士が対局する」時に初めて使われる言い回しです。
ルールを覚えたばかりの入門者どうしの対局ならば単に「遊んだ」とか「対戦した」などと表現するはずですね。
このような言い回しが出てくるところから察すると、水戸市の小学生たちはみんなとは言わないまでもかなりの割合でオセロに精通しているに違いありません。
……やはり水戸市の小学生は授業でオセロを習ったりするのだろうか……?
……発祥の地だけに!?
そういえば海外では小学校の科目で「チェス」を教えている国があるといいます。
チェスが好きな私としては何とも羨ましい限りなのですが、きっと水戸市の学校もそれに同じく国語、算数、社会などに交じって「オセロ」を正式科目として採用しているのだろう。
また全ての学校に「将棋部」や「囲碁部」と並び「オセロ部」が存在しているに違いない!
そして毎年決まった時期に市内では「水戸市小中高生オセロコンテスト~最強はどの校だ!?~」なる大会が開かれ、水戸市内の小中高生が日ごろの修行の成果を試すため、強豪相手に思う存分暴れまくるのだろう、絶対そうだ!
きっと水戸市内では最下位クラスの学校であっても、他県のオセロ部と比べるとその実力はくらべものにならないほど強いのでしょう。
………素晴らしい………!
とても魅力的です。
ボードゲームを「授業の一環」すなわち「勉強」や「学問」や「スポーツ」としてとらえているだなんて。
どうにもきつねの知る限りこの類のゲームは「遊び=勉強の敵」「内遊び=外遊びの敵」→「家にいるなら勉強しなさい!遊ぶのなら外に出なさい!ボードゲームなんてやるもんじゃない!そんなの何の役にも立たない!」
……みたいな扱いを受けてきていた気がするのですが、それが水戸では立派に科目として受け入れられているのですね、きっと。
……私もそんな環境に生まれたかった。
こういう盤遊戯教育、面白そうですし何より役に立つので全国に広がればいいのにと思うのですが、きっとまだまだ「ボードゲーム=スポーツ・学問・勉強」であり、「学んでおけば将来役に立つ」ものであるという先進的な考え方ができない学校や町が多いものと思われます。
オセロやチェスやついでに囲碁や将棋の経験が一体何の役に立つのかなんて実際にのめり込んだ人にしかわからないことですし、はっきり言って何も知らない素人さんにその価値を否定することなどできるわけがないはずなのですが、どうしてみんなそんな簡単なこともわからず頭ごなしに否定したがるのだろうか……。
自分に理解できないことを頭ごなしに「存在しない」と決めつけるこれらの後進的な考え方をする人たちや学校が、全国の子供たちから「ボードゲームの才能の芽」を摘み取っているということは、もはや疑いの余地もありません。
これでは古来より将棋や囲碁や福笑いで培われてきた日本の「ボードゲーム魂」がすたれてしまうのも時間の問題であると思われます。
これはいけない……われわれ日本に住む者は「日本のボードゲーム魂」を取り戻さなくては!
そしてきっとそれには水戸市が一役買ってくれるはず!
こっ……ここは……!
発祥の地の意地とプライドにかけて!
オセロよ……水戸市と共に日本の「ボードゲーム魂」と「ボードゲームの才能の芽」を救うのです……!!
……水戸市の主導のもと、オセロが無事日本全国の教育を征服する日は訪れるのであろうか……。