昔のイルカさん
昨日に引き続き動物の……というか古代生物の話です。
……実はこれ、少し前に見たニュースで読んだものなのですね。
本当はその時に記事にしたかったのですが、如何せん別の話題(ロボット)を書いてしまったので、こちらが後回しになってしまいました。
……今日の記事は「魚竜」についてです。
昨日の「アライグマ恐竜」に同じく恐竜時代の動物のことで、同じくナショジオのサイトに出ていたニュースなのですが、最近この「魚竜」の体の構造が詳しくわかってきたらしいのですね。
保存状態の良い化石と最新の解析技術のおかげで、今までわからなかった体の柔らかい組織の構造を細胞レベルで確認できたのだそうです。
「魚竜」の詳しい体形や模様がわかっただけでなく、たんぱく質や脂肪の痕跡を見つけたりと、なんだか内容がまるで映画「ジュラシックパーク」をほうふつとさせるものだったのですね、元の記事にもそう書いてありましたが。
…………「魚竜」……………。
……………マニアックすぎてついていけない…………?
……ごめんなさい………。
……とりあえず、魚竜についての説明から始めましょうか……。
魚竜 Ichthyosaurus
魚竜(ぎょりゅう)はイルカに似た姿をした海の爬虫類で、分類学的には
爬虫綱-魚竜目
に属する動物の総称です。
ラテン語では「イクチオサウルス(サカナトカゲ)」と呼ばれますね。
……厳密には「ギリシア語由来のラテン語」であって、純粋なラテン語ではありませんが……。
恐竜より早くに出現し、また恐竜より早くに絶滅したグループで、名前が示す通り、本当に「サカナ」というか「イルカ」のような美しい流線型の形をしています。
海の爬虫類といえば「首長竜」や「モササウルス」などが知られていますが、首長竜は「首長竜目」という独立したグループですし、モササウルスは「有鱗目-モササウルス科」……つまりヘビやトカゲに近いグループ……なので、魚竜とは別ものなのですね。
……なんだか「恐竜時代の海の爬虫類」といえば「首長竜」と「モササウルス」のイメージが強い気がします……。
もしかして魚竜はマイナーなのかな……。
どうにも魚竜は後の方でこの2大グループに取って代わられたようです……。
みんなの記憶の中の印象も取って代わられてしまったのかも……。
同じ時に同じ場所で活躍していたはずなのになぜか他の子の方が印象が強くて自分は覚えてもらえない……。
なんだか漫才コンビによくありそうな現象ですが古生物の世界にもあったのですね、きっと。
日本語で「魚竜」といえば「魚竜目の動物」のことを指します。
「イクチオサウルス」というほうの名前も同じく広義では「魚竜目の動物」全体を指しますが、狭義では
魚竜目(イクチオサウルス目)-イクチオサウルス科-イクチオサウルス属
に属する動物のことを指すのですこし注意が必要です。
つまり、「目」、「科」、「属」が同じ名前なのですね。
……ちょうど現在の動物でいう
ネコ目-ネコ科-ネコ属
と似ているのですね。
単に「ネコ」といえば普通はにゃあにゃあの事を指しますが、イヌやキツネ、ハイエナ、アライグマ、オオカミなどを含めたグループ全体も「ネコ目」と呼ばれていますね。
さてこの魚竜、全てが肉食性で魚などの海の生き物を捕えて食べるのですね。
また卵を産む「卵生」ではなく、直接子供を産む「胎生」なのですね。
爬虫類なのに胎生……。
何だか変わっていますが、魚竜の暮らしぶりに原因があるようです。
魚竜は魚ではなく爬虫類なので、もちろんイルカと同じように肺で呼吸しますし、定期的に海面まで息継ぎをしに上がってきます。
ですが肺呼吸をする生き物であるがゆえに、どうしても水の中では卵を産むことができないのですね。
なぜなら水の中に卵を産んでしまうと、卵から孵ったとたんに子供が溺れてしまいます。
そのため、卵を産むときは一旦陸に上がり、溺れる心配のない地上で生まなければならないのですね。
そのあと卵から孵った子供が再び海に入れば、無事に何事もなかったかのように海での生活を送ることができます。
ちょうどウミガメやウミヘビがこのような生態を持っていますね。
しかし魚竜はそのイルカのような姿からもわかる通り、体があまりにも海に適応しすぎてしまったため、ウミガメのように陸に上がることはできないのですね。
陸に卵を産めない以上、もはや「卵を産む」という繁殖方法そのものをやめるしかありません。
そのため体の中で卵を孵し、直接子供を産むように進化したのですね。
イルカと同じように、子供は海面近くで生むのですね。
そうすれば子供は生まれてすぐに息継ぎができます。
また、イルカやクジラは陸で暮らす偶蹄目の哺乳類(パキケタスなど)が、海に進出することにより進化した姿ですね。
そのためイルカもクジラも、ウシやブタと同じ「鯨偶蹄目」というグループに属しています。
……イルカやクジラとウシやブタが同じ偶蹄目の仲間だというのは少々信じがたい気がしますが、これも近年の系統解析によって明らかになったのですね。
魚竜も彼らに同じく陸生の祖先のどれかから、わずか3000万年ほどの間に進化したと言われています。
このような進化をしたのは魚竜が地球史上初めてなのですね。
ですがイルカやクジラとは違い、一体どのような祖先から進化したのかはよくわかっていないのですね。
爬虫類であることは間違いないのですが、具体的にどんな動物だったのかは今の所不明なのだそうです。
もしかしたら既に発見されている爬虫類である可能性もありそうですが……
……魚竜………。
イルカやクジラの先輩ですが、先輩だけに資料も少なく謎が多いのですね……。
ステノプテリギウス
さて、上に書いたことはあくまで「魚竜目」の動物の一般的な話です。
今回解析に成功したのはその中の
ステノプテリギウス科-ステノプテリギウス属
に属する、その名も「ステノプテリギウス(Stenopterygius)」……なのですね。
……恐竜に同じく魚竜もそのまま学名が日本語名になっているのでわかりやすいですね。
これが中国語とかだといちいち漢字に直したりしているのか知らん。
残念ながら種小名まではわからなかったのですが、このステノプテリギウスの極めて保存状態の良い化石を解析して、体の詳細な構造が分かったという論文が今月5日付でイギリスの科学雑誌「Nature」に載ったのですね。
海の生き物であるゆえに酸素の少ない深海に沈み、酸素が少なかったがゆえに綺麗な状態で化石が保存されていたのだそうです。
化石からはしわやひだまで残った皮膚や、色素を含む細胞、さらに皮下脂肪層の痕跡が見つかったのですね。
皮膚の質感や色どころか細胞レベルの構造までわかるのだそうですから凄いですね。
それどころかたんぱく質の痕跡まで残っていたそうで、もし本当なら今までで最も古い「生体分子」が保存されていることになるそうです。
……解析により浮かび上がってきたのは、今まで考えられていたよりもさらに「イルカっぽい」魚竜の姿なのですね。
体の色は案の定イルカのように背中側が濃く、お腹側が薄い「カウンターシェーディング」になっていたのですね。
……昨日の「アライグマ恐竜」の記事で書いた用語がこんな所でまた出てきてしまいましたね。
おそらくカウンターシェーディングは本当に動物の間では一般的な模様なのでしょう。
こういう模様だと海の中では下から見た時にお腹の明るい色が水面の色と同化して見えにくくなり、また水面から見た時も背中の暗い色が海の色と同化して見えにくくなるのですね。
このため敵に発見されにくくなり、また獲物に気付かれずにこっそり近づくことができるようになるのですね。
さらに皮下脂肪の層の痕跡が発見されたことにより、どうやらイルカ同様脂肪の層で体温を維持していたらしいことがわかってきたのですね。
……「あついしぼう」で「炎や氷に強かった」のだろうか……。
……最近では「恐竜は恒温動物だ」という説が当たり前になってきていますが、もしかしたら「魚竜も恒温動物」……だったのかもしれません。
いや、ここまで来ているのならきっとそうだったのでしょう。
爬虫類はきっと進化を繰り返すうちに恒温動物になるのですね。
もしかしたら首長竜も……?
色々と物議を醸しだす発見
最も議論を呼んだのはやはり「たんぱく質」の発見なのですね。
そもそもこのような組織は化石に残らない事で知られており、去年2017年にも中国で恐竜の骨付き肉……じゃない、「肉付き骨」が発見され、物議をかもしたようです。
今回ステノプテリギウス化石にもたんぱく質があったという意見については割と懐疑的な目で見る学者さんもいるようなのですが、もしこれが本当なら本当に「最古の生体分子」になってしまいます。
……もしかしたらそのうちDNAなんかも見つかったりして……。
「ジュラシックパーク」では琥珀の中に遺された恐竜のDNAを取り出し、クローンとして復活させました。
そのためかDNAも化石と一緒に何億年も残り続けるイメージがあるのですが、実際のDNAには残念ながら寿命があるのですね……。
DNAの分子はだいたい680万年ほどで分解されて無くなってしまうと言われており、ネアンデルタール人やマンモス、スミロドンなど、比較的新しい化石からなら取り出すことができるのですが、流石に1億年以上前の恐竜や魚竜の化石から取り出すのは難しいのですね……。
DNAを取り出す技術があっても、肝心のDNAそのものが無くなってしまっているのではどうしようもありません。
ですが今回「化石に残らない」と言われていたたんぱく質が痕跡だけでも発見されたのですから、保存状態によってはもしかしたら可能性もあるのかも……。
……などと夢を膨らませたくなるのですが、実際の所はどうなのだろうか……。
そのうちDNAそのものは無理でも、その「痕跡」を解読することによって、もしかしたら全ゲノム情報をデータとしては取り出すことができるようになったりして……。
さらにそこに「遺伝子編集」の技術を組み合わせて、そのデータ通りのDNAを切り貼りして作れたり……するようにはならないか、さすがに……。
なんにせよ、色々と妄想が膨らむ……じゃない、想像を掻き立てられる発見でした。
……魚竜さんも超音波で会話したりしていたのだろうか……。