世界水族館会議
今朝の新聞に面白い記事が載っていたのでそれについて書こうと思います。
ことし11月……つまり先月、5日から10日にかけて、福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」で「世界水族館会議」なるものが開催されたようです。
世界各国35か国から水族館関係者が会場に集まり、様々なテーマの研究発表や意見の交換などを行うのですね。
今回のテーマは「水の惑星・地球の未来について考える」だったそうで、そこで「マイクロプラスチックによる海洋汚染」についての講演があったようです。
マイクロプラスチックは小さなプラスチックの破片のことで、最近では海などの環境を汚してしまうことで問題視されていますね。
私も以前このブログで「プラスチックごみとレジ袋」について書きました。
講演したのは地元福島市の技術コンサルタント、小松道男さんで、使い終わったら自然に還る「生分解性プラスチック」を広めようと訴えたのですね。
生分解性プラスチックとは、1993年に開催されたアナポリスサミットによると「微生物によって完全に消費され、自然的副産物――炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど――のみを発生させるプラスチック」と定義されています。
……つまり、使い終わった後、自然物と同じように微生物によって分解されて土に還ることができるプラスチックのことなのですね。
自然界では生き物の体などの物質は役目を終えると他の生き物によって分解され、有機物やガスなどの再利用できる形に戻るのですね。
一般的にはこれを「土に還る」なんて言ったりしますね。
ですが言うまでもなく普通のプラスチックを分解できる生き物はいませんから、普通のプラスチックは捨てられると砕けて破片となることはあっても土に還ることはなく、半永久的に自然界をさまよい続けることになります。
これが最終的には海に流れ着き、そこに住む生き物たちに深刻な悪影響を与え続けている……というのは今更言うまでもないことですね。
――自然界で、分解できない――
……これは人がプラスチックを使うにあたって直面する最大にして最難の問題なのですね。
これを根本的に解決する道はただ一つ……「プラスチックを自然界で分解できるようにする」ことだけです。
それを可能にしてくれるのが、「自然界で分解されるプラスチック」である「生分解性プラスチック」なのですね。
自然に還るプラスチック「ポリ乳酸」
さて、先に紹介した小松さんですが、実はすごい技術を開発したすごい人です。
「生分解性プラスチック」の一種に「ポリ乳酸」と呼ばれるものがあるのですが、その加工と普及への道を開いたのですね。
そのため政府主催の「ものづくり日本大賞」2018年最高賞……というのを受賞したそうです。
「ポリ乳酸」、トウモロコシのでんぷんに含まれる乳酸を材料として作られるプラスチックで、他の「生分解性プラスチック」に同じく使い終わった後は自然分解ができるという利点があります。
これはまさに「プラスチックの最大の欠点」を解決するすごい素材なわけなのですが、この素材にも短所があります。
なんと加工するのが難しいのですね。
普通のプラスチックは温めて軟らかくし、型に入れて形にすることで加工することができます。
もちろん「ポリ乳酸」もプラスチックですから、同じようにすれば加工できるのですね。
ただ、どうやら固まり方が普通のプラスチックと違うようなのです。
普通のプラスチックは冷えると徐々に固まっていくのですが、「ポリ乳酸」は一定温度以下になると一気に固まるという性質があるのですね。
急激に固まることによって金型にくっついてしまい、はがせなくなることがあるそうです。
プラスチックは「加工」することによって真価を発揮する「素材」なのに……それが加工できないだなんて………。
…………だめじゃん。
……この問題は長年研究者たちを悩ませていたのですね。
ですが小松さんは金型に温度センサーを入れて温度を測り、固まる温度になった時に金型と「ポリ乳酸」との間に空気を入れてはがすという方法を考案したのですね。
これによりくっつくことなく綺麗に金型からはがせるようになり、ネックと言われていた加工のしにくさという欠点に風穴が開きました。
さらにこの技術、無事に実用化されていて、なんと子供向けの食器を作るのに役立っているのですね。
土に還る食器「iiwan」
小松さんの技術を知った愛知県新城氏の金属部品メーカー豊栄工業さんが、小松さんと共に共同開発し、7年前に売り出した食器があります。
その名も「iiwan」!
「イイワン」……「良い碗」……?
…………そのまんまじゃん。
………名前の意味には言及しないことにしましょう。
これ、お皿やらお茶碗やらマグカップやらスプーンやら、本当に色々な種類があり、色も5種類の中から選べるようになっているのですね。
どれもお洒落でかわいいデザインばかりで、製作者の愛情とこだわりを感じます。
「子どもが人生ではじめて使う食器」にしたいというモットーの元、子供にやさしい、自然にやさしい「ポリ乳酸」を材料にして作っているのですね。
「ポリ乳酸」は土に還るプラスチックですが、同時に有害物質を出さないプラスチックでもあります。
原材料がトウモロコシなので石油は含まれていませんし、またそもそも食べられる植物ですから体に悪影響も与えません。
既に様々な規格・試験を満たしているようで、その品質もとても素晴らしいものなのですね。
……ただ、「ポリ乳酸」という素材の性質上、現状どうしてもコストがかかってしまうため、お値段は少々お高くなってしまうようです。
また使用されているのは耐熱性がある「ポリ乳酸」なのだそうですが、それでも電子レンジにかけすぎると焦げたり溶けたりする可能性があるのですね。
改良することで改善できるのだろうか……配合とか?
無敵の切り札に見える「ポリ乳酸」ですが、実はまだまだ発展途上の素材なのですね……。
「ポリ乳酸」、これから普及するか。問題は?
小松さんいわく国内での「ポリ乳酸」の普及率は、プラスチック全体の0.1%以下なのだそうです。
耐熱性とコストの課題を乗り越えさえすれば、もっと普及するのかも……しれません……。
もしこのプラスチックが普及して……近い将来「世界中で生産されている全てのプラスチックがポリ乳酸」ということになれば……、今環境を悩ませているマイクロプラスチックの問題も解決するのかもしれませんね。
……その前に「今出回っているマイクロプラスチックをどうするのか」を考えなければいけませんが……。
…………「プラスチックを分解できる微生物」を作るとか……。
「抗核バクテリア」……ならぬ「抗プラスチックバクテリア」……!?
……その辺の解決策は見当もつきませんが、そういえば「ポリ乳酸」、材料がトウモロコシなのですよね……。
きつねとしてはそちらの方も気になります。
原料となるのは「トウモロコシの食べられるところ」なのでしょうか。それとも「トウモロコシの廃材」?
……場合によってはさらなる問題が発生する可能性があるものと思われます。
なぜなら前者の場合、どう考えても人や家畜が食べるトウモロコシと競合することになるからです。
つまり「ポリ乳酸」の生産量が増えるにしたがって、人や家畜が食べる分のほかに、「新しくポリ乳酸の材料用にトウモロコシを栽培しないといけない」という状況になります。
……つまり必然的に「トウモロコシ畑を増やさなければいけなくなる」わけですね。
……この展開……なんだか既視感がありますね。
そう、いつぞやのアレです………「バイオエタノール」!
バイオエタノール自体は環境にやさしい素晴らしい燃料でしたが、材料がサトウキビやトウモロコシであるため、量産するには畑をたくさん作る必要があり、結局は森林伐採に拍車をかけてしまったというオチだったと記憶しています。
「ポリ乳酸」についても同じ問題が起こるのではないか……ときつねは危惧しているのですが……その辺りの事情はどうなっているのだろうか……。
もし「食べられない廃材部分」が材料となるのなら、単純に「今まで捨てていた場所を再利用すればいい」ということになりますから、このような問題は起きないのではないかと思われます。
……「今までリサイクルして肥料にしていた部分が材料になって肥料にできなくなる」……というような問題は起こるかもしれませんが……。
どうなのでしょうね……。
前に他の記事でも書いた通り、確かにトウモロコシは「世界第1位の生産量を誇るイネ科植物」ではありますが、「世界中のプラスチックの材料の供給」をカバーし、なおかつ今まで通り「人や家畜のお腹を満たすだけの食料の供給」を同時に行うなどということができるものなのでしょうか……。
もしそれができないのならば畑を増やすしかありませんが、今の時代世界中ですでに畑にできる土地を使い果たしつつあります。
従ってこれから畑を増やすためには、案の定森林を伐採して土地を確保するしかありません。
……砂漠を開拓して畑にできるのなら話は別かもしれませんが。
環境にやさしいプラスチックが普及してくれるのはとても素晴らしいことなのですが、そのために環境に悪影響を与えることをするのであれば本末転倒ですね。
この辺りの折り合いをうまく付けられるのかどうか……、それが「ポリ乳酸」普及の鍵であり、大きな課題なのかもしれません。