何とはなしに、きつねとコーラ。

管理人のきつねとその相棒のべっつりコーラが、日々の出来事について思ったことや感じたことをただ淡々と述べていくだけのブログ。

小麦の遺伝情報解読!これで品種改良に拍車がかかる……?

ゲノム解読完了

どうやら小麦のゲノム(全部の遺伝情報)の解読が終わったみたいですね。

……というよりやっていたんですね……以前「ヒトゲノムの解読」なんていうのは話題になりましたが。

この解読、2005年から始まっていたようで、このためだけにフランス、オーストラリア、アメリカ、イギリス、日本などの国々が協力しあい、共同研究期間「国際コムギゲノム解読コンソーシアム」を結成していたのですね。

また解読したのは「チャイニーズ・スプリング」という品種で、これはコムギ遺伝学における標準品種なのですね。

……コムギ遺伝学……。
そんな学問があったのですね……知らなかった……。

今回は次世代型のシーケンサー(遺伝子の解読装置)を使って解読したのだそうです。

前の年の2004年にはイネのゲノム解読が終わっていたそうなのですが、その時にはなんと8年もかかってしまったのですね。

また小麦のゲノムの大きさは145億塩基対もあり、これはなんとイネの40倍もあるそうなので、イネと同じペースで解読していては320年もかかってしまうのですね。
そのため小麦ゲノムの解読は不可能に近いと思われていたそうですが、次世代シーケンサーという強力なツールが登場したことによりできるようになったのですね。

それにしても、なぜこのような大がかりな研究をしていたのでしょう。
それは現在の小麦を取り巻く事情が関係していました。


小麦

まず前提として、一口に「小麦」と言っても実はいくつもの種類があります。

これは長年にわたる改良により作り出された「品種」のことではなく……、それよりももっと大きな分類である「種」のことです。

というのも小麦というのは

植物界-被子植物-単子葉植物-イネ目-イネ科-イチゴツナギ亜科-コムギ連-コムギ属

に分類される植物の総称(属名)で、動物に例えるなら「キツネ」や「タヌキ」くらい大雑把な呼び名です。(タヌキはキツネとちがって一種類しかいないので、この呼び名でも種が特定できるのですが。)

コムギ属に属する植物いわゆる「小麦」には、

パンコムギ(Triticum aestivum)
・クラブコムギ(T. compactum)
・デュラムコムギ(T. durum)

などの種類があるのですね。


ですが普通単に「小麦」といえば、このうちの一つである「パンコムギ」を指すようです。

パンコムギはその名の通りパンの材料になるあの小麦ですね。
日本人にもお馴染みの小麦であり、おそらく食べたことがない人はいないのではないでしょうか。

今回ゲノムが解読された「チャイニーズ・スプリング」はこのパンコムギの品種なのですね。

分類学的な区分では「属」の下に「種」があり、そのさらに下に「亜種」、「変種」という区分がありますが、植物における品種というのはどうやら分類学的には大抵の場合この「変種」にあたるようですね。

つまり「チャイニーズ・スプリング」は分類学上は「コムギ属-パンコムギ種-チャイニーズ・スプリング変種」という位置づけになるようです。

以下ここでは「コムギ属-パンコムギ種」のことを「小麦」、コムギ属の植物全般は「コムギ」と呼ぶことにします。


ちなみに小麦と同じ「コムギ連」に属する植物には他にオオムギ(Hordeum vulgare)やライムギ(Secale careale)などがありますが、こちらは別属なのですね。


無駄に多い遺伝情報

また小麦は研究者を悩ませるほどに遺伝情報が多いですが、小麦が持つ遺伝情報……145億塩基対……というのは、麦の仲間の中でもやはり多いようです。
近縁種のオオムギと比べると、なんと3倍もあるのですね。

一体なんでこんなにたくさんあるんだろう……。
これほどまでに遺伝情報が多くなってしまったのは、どうやら過去にたどってきた交配の歴史と関係があるようです。

どうやら今生きている「パンコムギ」は、もともと3種類の野生のコムギ

・Triticum urartu(すみません、日本語名がわかりませんでした……)
・クサビコムギ(Aegilops speltoides)
・タルホコムギ(Aegilops tauschii)

が交配を重ねた結果生まれたようです。
しかもパンコムギ……なんとこれら3種全ての遺伝情報を持っているのですね。

最初に野生のコムギである「Triticum urartu」と「クサビコムギ」が交配し、「エンマーコムギ(Triticum dicoccon)」が誕生したのですね。

エンマーコムギは両親である「Triticum urartu」と「クサビコムギ」両方の遺伝情報を持っているようです。
……この時点で早くも遺伝情報が倍になってしまったのですね。

そしてこのエンマーコムギが、再び野生コムギである「タルホコムギ」と交配し……その結果現在の「パンコムギ」が生まれたようです。

ここでまたゲノムに「タルホコムギ」のゲノムが追加されました……。

つまり、最終的にパンコムギは「Triticum urartu」、「クサビコムギ」、「タルホコムギ」……3種類のコムギの遺伝情報を全て持つことになったのですね。

生物が交配することにより遺伝情報が増えることを「倍数化」といい、これはかなり珍しい現象なのですが、コムギの場合はどういうわけかそれが過去に2回も起きてしまったのですね。
そのためにこんなに多くの遺伝情報を持つに至ったようです。


こ……これは……!
遠い昔に紆余曲折あって様々な言語の語彙が合わさった結果、ものすごい数の語彙数を持つに至った言語……!
世界中で話されてはいるもののその文法は例外だらけ!その歴史も謎だらけ!せっかく表記に便利なラテン文字アルファベットをラテン語から受け継いだにもかかわらず、数百年前に起こった謎の現象「大母音推移」により書いたとおりに発音しなくなったあの言語……複数形はみんな「s」が付くのかと思いきや、ラテン語由来の単語は「fungus → fungi」とそのまんまラテン語の変化をするなど、単語どころか文法規則までごちゃ混ぜになっている、みんな大好きあの外国語……!!

……「英語」……の歴史にそっくりですね。

小麦は植物界の「英語」に違いない!


なお、便宜上「コムギ」と呼びましたが、「クサビコムギ」と「タルホコムギ」は厳密には「コムギ属」ではなく「アエギロープス属(タルホコムギ属)」の植物なのですね。

……属レベルで違うのにそもそもどうして交配できたのだろう……謎だ。

 

世界三大穀物

小麦は世界第2位の生産量を誇る穀物で、イネ(Oryza sativa)やトウモロコシ(Zea mays)とあわせて「世界三大穀物」と呼ばれているのですね。

生産量第1位はトウモロコシですが、殆どが家畜の餌として作られているので、人が食べている量では小麦の方が多いのですね。

世界三大穀物」は世界の人々の食糧基盤を支える重要な穀物ですが、最近地球規模で環境が変わったり、人口が増えたりしているので、小麦がもっとたくさん必要になってきたのですね。

一説によると2050年頃までには世界の人口は98億人を超えてしまうと言われています。
これだけ多くの人たちのお腹を満たすためには、小麦を今の6割ほど多く作らないといけない計算になるのですね。

また早いうちに、未来の環境の変化に適応できるような品種を作らなくてはいけないのですね。
せっかく育てる数を増やしても、環境に適応できずに枯れてしまったのでは本も子もありませんものね。

なのでさらに品種の改良をし、「たくさん収穫でき、なおかつ新しい環境でも育つ品種」が作りたいのですね。

……それにしても「人口が2050年までに増えるから食料が足りない」って……。
なんだか以前「昆虫食」の話でも書いたような問題がここにも絡んできましたか……。
世界はまるく、つながっているのですね、きっと。

なんにせよこのような理由で今回のゲノム解読が行われたようです。
ゲノム配列がわかることにより、どの遺伝子があればどのような品種になるのかなどの詳しい情報がわかり、より効率的に新しい品種の開発が行えるようになるのですね。


そういえば……。
「イネと小麦が解読完了した」と書きましたが……トウモロコシはどうなっているのでしょう。
今回の小麦で「世界三大穀物」の解読が全部終わったのだろうか……。

少し調べてみると……なんと、トウモロコシ、実は2009年ごろの時点で既に解読が行われていたのですね。
トウモロコシは小麦ほどではありませんが膨大な量の遺伝情報を持っているため、かなり手間が掛かったようです。


……小麦の遺伝情報の7分の1の量だそうですね。
世界三大穀物」のゲノムの大きさはそれぞれ

イネ     染色体数 24、塩基対 3億7千万
トウモロコシ 染色体数 20、塩基対 21億
小麦     染色体数 42、塩基対 145億

……なのだそうです。なんとまぁ……。


トウモロコシとイネのゲノム情報は既に解読されていますので……これで晴れて「世界三大穀物」の解読が終わったことになります。

それにしても……塩基対の数、ものすごく大きいですね……。
一生物の体を構成するにはこれだけ多くの遺伝情報が必要なのですね、きっと。

バイトに換算するとどうなるのだろう……。単純に1塩基対=1ビットとはできなさそうですが……。


ゲノム解読、世界を救う?

とりあえず、ゲノムを解読することにより品種改良がしやすくなるのですね。それは私でもわかりました。
今回解読が終わったわけですから、近々本格的に小麦の改良が始まるのではないかと思われます。

最近では普通に品種改良を行うだけでなく、狙った遺伝子を操作するいわゆる「ゲノム編集」の技術までありますから……これらの技術を使った改良も普及するのだろうか……。
……ヘンな所を弄ってコムギがオオムギになったり……はさすがにしないか。

どんな方法を使うかは専門家の方々にお任せするとして、これで新しい小麦が作られ、なおかつ昆虫食も普及すれば、主食とたんぱく源は揃いますね……!
きっと2050年時点で世界中に散らばる98億人の人たちがひもじい思いをしなくてすむようになるのでしょう……多分。

……あれっでも野菜はどうするのだろう……。
……トウモロコシ……?


しかし凄いですね……いまどき遺伝子を読み取る機械があるのですね……。
そして読み取った遺伝情報を整理して、ドコの遺伝子がナニをやっているのかを解明していくき、結果ドコを弄ればナニが起こるのかもわかるのですね。

すごい……これぞまさにハッキングだ……!

なんだか昔、ソフトウェア開発をしていたときのことを思い出しました。
あの時はよく先方の作ったファイルのフォーマットをそれを読み込むプログラムのソースコードと照らし合わせながらバイナリエディタで解読したものです……。
はっきり言えばあれは先方がちゃんとファイルの仕様書をよこしてくれれば必要のない作業で、とんだ無駄なことをやらされた感がありましたが……。

ですが実際の生物の遺伝情報にはもちろん仕様書は無いため、このようにして解読していくしかないのでしょう。

私は遺伝子工学については素人ですが、おなじ解読……なんだか似ている気がします。
やっぱりバイナリファイルを見ているみたいな感じなのだろうか……。

納期が迫ると地獄ですが、納期が特に設定されていなければ、地道で面白い作業……なのかな……。