子育ての季節
そろそろですね。
いや、もう始まっているのでしょうか、子育て。
普通の子供ではなく、次世代を担う子供たちです。
………スズメバチの。
スズメバチ……大きくて強くて獰猛なハチですね。
ミツバチやアシナガバチと同じく母親つまり女王を中心とするコロニーを作って暮らす珍しいタイプのハチですが、人間をも倒すほどの強力な毒を持ち、毎年10~20人ほどが刺されて亡くなっていますね。
群れはフェロモンと呼ばれる化学物質を使ってお互いに連絡を取り合い、統率のとれた軍隊のように行動することができます。
毎年秋になると次の世代の女王蜂と、そのパートナーとなる雄蜂が生まれるので、彼らを守るために働き蜂達は神経質になり、うっかり巣に近づこうものなら手当たり次第に攻撃してくるのですね。
ただでさえ攻撃的なスズメバチがより一層狂暴になるので、秋は危険な季節だと言われていますね。
……今年の秋は特に増えるそうです……スズメバチ。
スズメバチが大量発生?
どうやら原因は今年の異常な暑さにあるようです。
スズメバチは春に巣を作り始めますが、今年は4月の気温が高かったので巣作りの時期が2週間ほど早まってしまったそうですね。
さらに梅雨が短かったことも影響しているようです。
巣は雨に弱く、本来は梅雨の時期に雨でダメージを受けてハチの数も減ってしまうようです。
しかし今年は梅雨が短かく、彼女らにとっての「夜明け」である夏が早い段階で来てしまったため、あまりダメージを受けず、ハチの数も減らなかったのですね。
結果、兵力が存分にありあまっているようです。
……私の見た記事には具体的に「スズメバチ」がどの種なのかは書いていませんでしたが、遭遇することによる危険性を心配するものだったので、おそらくは町にもよく顔を出すキイロスズメバチあたりかと思われます。
キイロスズメバチ
オオスズメバチ
コガタスズメバチ
ヒメスズメバチ
……の4種が特に危険なのだとか。
また比較的小型のキイロスズメバチが町に増えることにより、それらを狩ることもある大型種、オオスズメバチを呼び寄せてしまう可能性もあるのですね。
……なんだか複数種のスズメバチが出てきてややこしくなってきましたね……ちょっと彼女らについての補足を入れましょう……。
スズメバチ
スズメバチというのはそもそもハチ目スズメバチ科スズメバチ亜科の昆虫の総称で、その中には
ホオナガスズメバチ属(Dolichovespula)
ヤミスズメバチ属(Provespa)
スズメバチ属(Vespa)
クロスズメバチ属(Vespula)
の4属があります。
オオスズメバチもキイロスズメバチも同じ「ウェスパ属(スズメバチ属)」に属するハチですね。
ウェスパ(Vespa)はラテン語でスズメバチのことで、英語のワスプ(Wasp)と同じ語源なのですね。
とりあえず二種類……キイロスズメバチとオオスズメバチについて。
キイロスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)は単独の種みたいな名前ですが、実はケブカスズメバチ(Vespa simillima)というハチの亜種なのですね。
もっとも攻撃性の高いハチで、なおかつ街中にも普通に巣を作るので、刺される人が一番多いのはこのハチのようです。
オオスズメバチ(Vespa mandarinia)は日本最強のハチと言われていますね。
……一説によれば世界最強という話も……?
元々アジア一帯に住むハチで、日本に住むのは Vespa mandarinia japonica(ウェスパ・マンダリニア・ヤポニカ)という亜種です。
キイロスズメバチほどではありませんが高い攻撃性を持ち、キイロスズメバチ以上に強力な毒を持っていて、時には他のスズメバチさえも襲う事があります。
さらに体は甲虫のような強靭な外骨格でおおわれており、高い防御能力を持ちます。
スズメバチは大人になると樹液や花の蜜などの植物由来の汁や蜜だけを食べるようになりますが、子供のころは他の昆虫を食べて育つのですね。
ただし子供には足も無く、翅も無く、巣から出ることもできないため、働き蜂たちは盛んに飛び回り、他の昆虫を捕まえて子供に与えます。
夏に育つ子供は全て雌で、大人になると働き蜂になりますね。
このころの女王蜂はただ卵を産むだけの毎日を送っていますが、働き蜂たちが巣を拡張したり食べ物を取って来たりしてくれるので、巣はどんどん発展していくのですね。
ただし、夏の間は餌となる昆虫はたくさんいますが、秋になると減ってきます。
また、秋には次の世代の巣を作る女王蜂や、女王蜂と結ばれる雄蜂が生まれてくるので、何とかして子供たちの食料を確保しなければなりません。
そのため秋になるとスズメバチはミツバチなど他の集団で生活するハチの巣を襲うことがあるのですね。
相手の働き蜂を全滅させるか追い払った後、残された子供やさなぎを食料にするのですね。
普通は襲いやすそうな相手を選びますが、上にも書いた通りオオスズメバチの場合は特に、キイロスズメバチなど他のスズメバチの巣をも襲う事で知られています。
相手は強力なハチですから、いくらオオスズメバチが最強でもそれなりのリスクはあります。
ただしもし無事に巣を奪い取ることができれば十分な収穫を得ることができるのですね。
先ほどの「キイロスズメバチが増えるとオオスズメバチを呼び寄せてしまう」というのはそういう事だったのですね。
攻撃的なキイロスズメバチと、毒が強いオオスズメバチ……こんなのが町に現れたら危ないですね……。
また、スズメバチは一度占領した他のハチの巣も自分の巣と同じように守る習性があるので、人間からしてみれば「昨日まで軒下の巣に住んでいたのはキイロスズメバチだったのに、今日見たらいつの間にかオオスズメバチになっている。進化したのか?」などということになりかねません。
私個人としてはスズメバチの姿かたちはかっこよくて好きなのですが、あの人たちとはどうにも友達になれる気がしませんね……。
ちょっと……そばに来られると思わず後ずさりしたくなります。
ただ、怖いハチだと思いきや、意外な一面があるようです。
意外にも環境保護に貢献
余談ですがオオスズメバチのこの習性が実は日本の環境保護に役立っているようです。
日本でも家畜として飼われているセイヨウミツバチ(Apis mellifera)はたまに農家を抜け出して野生化することがあります。
セイヨウミツバチはその名の通りヨーロッパから持ち込まれたもので、本来なら外来種であり日本の自然環境に悪影響を与える可能性を持っていますが、不思議とオオスズメバチが生息している地域ではその影響が見られないそうです。
上に書いた習性により、オオスズメバチは他のミツバチなどのハチの巣を襲います。
元々昔から日本で暮らしていたニホンミツバチ(Apis cerana japonica)にはそれは想定済みのことなので、彼女たちはオオスズメバチの襲撃に対し防御をする術を持っています。
セイヨウミツバチにももちろん防御術はありますが、元々オオスズメバチがいない環境で暮らしていたため、オオスズメバチの襲撃は想定外であり、上手く対処ができないのですね。
そのためセイヨウミツバチは割とあっさりとやられてしまい、一定数以上には増えないようです。
なんとオオスズメバチは日本の生態系を守っていたのですね。
これならうっかり逃げ出すことを気にせずに安心してセイヨウミツバチやその他外来種のハチを飼育できますね!
ってそういう問題じゃないか……。
そういえば、百田尚樹さんの小説「風の中のマリア」の主人公もオオスズメバチですね。
初めて読んだ時は普通に悩んだり喋ったりするオオスズメバチに戸惑ったものですが、この本、彼女たちの生態がものすごく詳しく書かれています……。オオスズメバチについて知りたくなった時は読むといいかもしれません。
相手のことをよく知ると、また違った視点で相手を見られるようになりますね。
確かに攻撃的なハチですが、だからと言って自分から好き好んで攻撃してくるわけではありません。
相手がどういうときに襲ってくるのかを理解していれば、あまり怖がる必要もなくなるのではないでしょうか。
この秋には大量発生するかもしれないとのことですが、人もハチもお互いに不幸な事故が起きないように是非気を付けながら共存できると良いですね。